※以下の記述は、コンテスト審査対象外の記述です。
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「ところで、なんだけど」
彼女と出会ってしばらく経ったある日。
いつの間にか同居人、いや同棲人(恋人?)になったリリンに尋ねる。
「うーん、なーに?」
私と同じ布団で寝ているその子が、布団からひょっこり顔を出す。
「あなたたち二人は足りているのかしら」
「なんのことだろー?」
とぼけているが、尻尾があるならパタパタ振っているところだろう。
「あ、あの、その……生きていくために必要なもの。私の……その……」
「ああ、その話か」
魔女っ娘はようやく布団から上半身だけ抜け出してきた。虹色にぼんやり光るパジャマが可愛い。私とお揃いなのが照れるけれど、この光のおかげで夜トイレに行くときも怖くない。
「それなら、コハルのが溢れるほど……毎晩毎晩、ごちそうさまです」
彼女はペロリと舌なめずりをした。
「ちょっ、ちょい待ち!
それ以上は具体的な感想言わないで! ストップ!」
「え、わかったの?」
「……うん、足りてるってことでしょ?」
「うん。問題ないよ。むしろ過剰摂取で太っちゃうかも」
「ならいいけど、バックンの方はどうかしら?」
『夢探し』をしながらリリンと一緒にやってきた獏のバックンは、悪夢を食べて生きる糧としている。
「ああ、そっちも大丈夫。コハルが毎晩、仕事のトラウマとか将来の不安とか、上質なドロドロの悪夢をみてくれてるから、全然余裕!
最近毛並みが良くなったでしょ?」
確かにベッドの足元で丸まっている白黒ツートンの謎のイキモノは、ツヤツヤと輝き、余裕を見せてぐっすりと寝ている。
私の心の闇が、彼らの栄養になっている。なんだか複雑だけど、役に立っているなら、まあいいか。
日中は公私ともに悪いことばかりが続いていて、その分、夜に『いい夢』をみてメンタルの平静を保っていた私。
そこにリリンが現れ、彼女の魔法で、現実と夢を逆転してくれるという。
そうやって生まれた悪夢は、バックンが食べてくれる。
で、対価としてリリンに私の『愛』を提供している。
私とリリンとバックンは、こういう微妙なバランスのもと、関係を保っている。
名付けて『愛のエコ×エロシステム』。
だから、たやすくこの均衡が崩れてしまうのではないかと恐れている。この魔女っ娘さんがどう思っているかは知らないけれど、私にはかけがえのない大切な人なのだ。
「あのね、今日、ボク出かけるんだ」
「え、どこに?」
考えているそばからこの子、不安の種をばら撒いてきた。今まで私が仕事に出かけている間、彼女とバックンは部屋の中で過ごしていた。たまに近所の公園やコンビニに出かけているらしいが。この間なんて、コンビニの肉まんを魔法で温め直そうとしてボヤ騒ぎを起こしかけたばかりだ。
「仕事を始めるんだ」
「仕事って……お金がいるの?
言ってくれれば出すよ」
「そうじゃなくってね、ボクたち種族の天職なんだ。修行もしなきゃいけないし」
「?」
スマホのアラームが鳴る。やばい。このままベッドでゴロゴロしながらイチャイチャ話していると遅刻する。
私は慌てて支度をし、リリンの頬に「行ってきます」のキスをして(これは最近の日課だ)、部屋を飛び出した。
「じゃ、お先にいってきます。出かけるんなら気をつけるのよ。人前で浮いちゃダメだからね!」
「わかった。いってらっしゃい!」
彼女がどんな仕事を始めるのか気になったが、聞くことはできなかった。
◇ ◇ ◇
その日の夜八時頃。
疲れを背負ったまま部屋に戻ると、リリンはまだ帰っていなかった。うす暗い部屋の床で、バックンが一匹、ゴロゴロと転がって遊んでいた。
ひんやりとした、リリンのいない部屋。
私の胸の中に重くて冷たい液体がにじんできた。
仕事中も、スマホが気になって仕方がなかった。『今、何してる?』『ご飯食べた?』『変な人に声かけられてない?』と送りたくても、彼女はスマホを持っていない。
つながれない不安が、ボディブローのように効いてくる。
まさか、バックンまで置いて一人でどこかへ行っちゃわないよね?
思わずウルっとしながら見つめると、彼は仰向けのまま小さな黒い目で私を見つめ返した。
「ねえ、リリンがどこにいるか、知ってる?」
バックンはしばらく静止していたが、やがてコクンとうなずいた。
「お願い……そこに連れていって」
彼はノソノソと玄関に向かった。慌ててあとを追う。
ドアを開けると彼はピョコンと飛び出し、宙に浮いた。スルスルと地上一.五メートルの高さを前に進む。私は離されないように小走りでついていく。夜の住宅街を、宙に浮く小動物を追いかける女。通報されませんように。
隣駅の方まで連れられてくると、商店街のはずれに風変わりな一軒家があった。
北欧風の少し古ぼけた木造の建物。窓から薄いオレンジの明かりが漏れている。煙突からは甘い香りの煙がたなびいている。
ドアの上には『アルメリナのアロマショップ』と、舌を噛みそうな店名の看板がかかっていた。
扉が開き、二人組の女性が出てきた。手に手に虹色の手提げ袋を持っている。
「いい香りねえ」「なんか若返った気がしない?」
バックンはドアの隙間にスッと入っていく。私も彼に続いた。
「いらっしゃいませー」
複数の女性の声が迎えた。彼女たちの制服は、カラフルなストライプのブラウスに、ダークグレーのプリーツスカート。カフェの店員さんのようで可愛い。
看板の通り、店内は様々な香りが渾然一体となって漂っている。
「あっ、コハル⁉」
奥の薄紫色のコーナーから声がした。リリンだ。みんなと同じ制服を身につけている。ケモミミ帽子は脱いでいるが、髪色は目立っている。
彼女は駆け寄ってくると、バックンのおでこをコツンと小突いた。
「こら! あれほど連れてきちゃだめって言ったのに」
いまいち状況がわからないが、リリンはこの場所に私が来ることを望んでいなかったらしい。
「もうすぐお店終わるからさ、『外で』待っててくれるかな?」
「えー!
せっかくだからお店の中をみて回ってもいいでしょ。なんで外?」
「……それは……じゃあ、ボクの売場に来て」
可愛い店員さんは私の手を引いて奥にぐいぐい進む。その手の温かさにホッとする。
そこはラベンダーのコーナーだった。
この一角は、柔らかで優しい香りが漂っている……そうだ、これはリリンと同じ香りだ。
ちょっと照れて頬を染めた彼女は、やや緊張しながら商品の説明をする。
「えっと、このアロマオイルは、安眠効果があって……こっちのキャンドルは、リラックス効果が高くて……」
そうか、今日は仕事の初日なんだ。一生懸命働いている姿に、なんだか保護者のような気持ちになる。
私はそのたどたどしい説明に頷き、結局、入浴剤とハンドクリームを買って彼女の売り上げに貢献した。
閉店間際に店を出て、リリンを待つ。
「おまたせ!」
リリンが店から飛び出てきた。制服のままだ。
「そんな格好でいいの?」
「うん、他に持ってないし」
返答に困る。この子、本当に洋服を持っていないんだ。
「一緒に帰ろう!」
小さな手を私に差し出してきた。ちょっと冷たいその手をとる。
夜道を二人で歩く。手をつないで。これって、デートみたいだ。
「ねえ、聞いていい? あのお店は?」
「ボクたちの種族の直営店なんだ」
「へえ、同じ種族でアロマの商品を売っているの?」
「うん、製造から販売まで……あっ、特に妖しいものは入ってないよ! 多分」
「ほんとう? 多分って何よ」
私は疑いの目を向け、冗談よと笑う。
「ボクの正式な名前は、『アルメリナ・ラベンダー・リリーネ』。アルメリナは種族の名前でお店の名前。ラベンダーはボクの家系の名前で、歴代の女王の直系なんだ。あ、それでラベンダーのアロマの製造販売を代々担当しているんだ」
さらっと、女王の直系だと言った。
「ねえリリン、ということは、あなたは……プリンセスってこと?」
「ああ、そのうち王位を継ぐときが来るかもね……だから、こっちの世界に来てお店の手伝いをしているのも、見聞を広め王位にふさわしい魔女になるための修行みたいなものなんだ」
「そ、そうなんだ……」
驚きとともに、胸の奥に小さな氷の塊りが生まれたような気がした。
いずれこの子が、王女様になって、遠いところに行ってしまう。元々私のようなしがない会社員とは住む世界が違うんだから。
「ところでリリン、私をあまりあのお店に入れたくないみたいだけど、どうして?」
「えーっとそれは……」
少女は困って下を向く。
「ボクたち一族は、『女の子大好き!』のサキュバスだよ。ちょっとヤバイ子もいて……ほら、カモミールの売り場でニタニタしてた女の子に気がつかなかった?」
「え、そんな子いたっけ?」
「うん……カモミール家のミルラって子なんだけど、コハルを見たら絶対ちょっかい出してくると思って……とられたらやだなって思ったんだ」
そういうことか。嫉妬してくれたんだ。
嬉しくて、私は繋いだ手に力を込めた。
「それはどういうことかな? 『生きる糧』をとられちゃうから? それとも?」
「もう、言わせないでよ! コハルはボクのものなんだから!」
魔女っ娘がパシッと私の背中を叩いた。
そんな二人と一匹が帰る夜道を、冷たい風が吹き抜けた。
「寒くなったり、少し暖かくなったり、最近は着るものが難しいね」
「ボクは魔女服の一張羅しか持ってないよ。これじゃデートも行けないし」
「あ、ごめんごめん……よし、今度のお休み、一緒に洋服買いに行こう。リリンに似合う服、私がコーディネートしてあげる」
「やった! 約束だよ!」
再び手をつなぐ。さっきよりも強く。
「コハル……今夜は、買ってくれた入浴剤で一緒にお風呂に入ろうよ」
「いいけど、いつもそうしてない?」
「今日は特別」
「どうして?」
「……だって、今夜から明日、多分『コハル日和』だよ」
「誰がうまいことを言えと!」
お湯をためた浴槽に薄紫のアロマのボールを放り込み、私たちは秋と冬の間のバスタイムを楽しんだ。
いつまでもブクブクと香りの泡を生み出す入浴剤。
きっと何か妖しい魔法がかかっているに違いない。だって、いつもよりリリンの肌が熱くて、私の心臓もうるさいくらいに高鳴っているから。
#魔界と現世、時間の長短
サキュバスで魔女っ娘のリリンと獏の子バックンが私の部屋で居候を始めて、あっという間に三か月が過ぎた。
いや、『あっという間』という表現が正しいのだろうか。あの娘たちと居ると、思いもよらないハプニングがあったり、かと思うとマッタリする時間があったり……そしてエッチタイムがたっぷりあったりと、いろんなイベント盛りだくさんなので、早いんだか遅いんだか、いまいちよくわからない。
あ、何も本能・性欲にかられてエッチなことをたっぷりしているわけではない、念のため。必要性『も』あってのことだ。
以前の私は悪運だらけの人生だった。
会社では不可抗力のミスが連続して上司に怒られっぱなしだし、社内の人間関係もうまくいってなかった。両親とはソリが合わなくて家を出た。そしてつきあってた彼氏と楽しい同棲生活! って思った瞬間にあっさりとフラれてしまった。
そんな時に何の脈絡もなく現れたのが、リリン。彼女の正式な名前は『アルメリナ ラベンダー リリーネ』といってサキュバスという悪魔、かつ魔女の一族の娘だ。
私は不幸な毎日を送っていたが、それを補うように、寝ている時はいつもいい夢を見た。
そこで、リリンは魔法を使って、私の悪夢のような現実と『良い夢』を入れ替えた。
そうすると夜中は悪夢を見ることになるが、その前にリリンが連れてきた獏のバックンが食べてくれる。
そうすると夜は何も夢を見なくなるわけだけど、その時間をリリンにあげる。
私と魔女っ娘はエッチなことをして、彼女は私の雫(ああ、恥ずかしい!)をゲットし、生命や魔力の糧にしているのだ。
ソレはリアルでいたしていることなのだが、いつも夢見心地なので、いわゆる『淫夢』と言われるものなのかもしれない。
こうやって、私とリリンとバックンの、持ちつ持たれつ? ウインウイン?のエコシステムが成り立っている。
一応、お互いの利害が一致してリリンと契約しているから、これ以上『魂』を寄こせなんて言われることはないようだ。
彼女はからかい気味に『エコシステムというよりエロシステムじゃない?』と言ってイシシと笑う。
「ただいまー、ふう、やっと週末だー」
私は、部屋に入ると鍵を閉め、コートを着たままソファーに倒れ込む。『ただいまー』と言ってみたものの、部屋に居るのはバックンだけ。彼(多分)はマットが敷いてある自分のナワバリで寝ていたが、半目を開けてまた寝てしまった。バックンの飼い主?相棒? のリリンは少し前から、彼女の一族が地球で経営している、(謎の)アロマ専門店『アルメリナのアロマショップ』で週五日で働き始めた。今日もそろそろ帰って……
「お疲れー、コハル! ボクも疲れたよー」
「ちっ、ちょっと」
ソファーで仰向けになっている私の上にいきなり現れ、そのまま抱きつく。
彼女は鍵が無くても部屋に入れるので、いつも帰宅方法はこんな感じだけど、その唐突さにはなかなか慣れない。
「ねえねえ、お風呂入ろ、お風呂!」
「ごはんは? 今日は疲れたからデパ地下で買ってきたけど」
「あとあと!」
疲れたと言ってたくせに、そそくさと風呂場に行き、お湯を溜め始める。
しょーがないなーとブツブツ言いながら、ダラダラとコートを脱いでラックにかけていると、背後から文字通り魔の手が忍び寄ってきた。
「こらこら自分で脱ぐから! だいたい、まだお湯が溜まってないでしょ?」
「早く早く!」
魔女っ娘の脱衣は早い。指をパチンと鳴らすと、スッポンポンになって、何も隠さない。
青く光る長い髪。子供の背丈ながら、わりと凹凸のある、きめ細かな色白の肌。
その姿を見て不覚にも私の気も急く。
彼女を脱衣所で捕まえると、彼女の髪をヘアクリップに挟んでまとめてあげた。
この時はなぜか魔女っ娘も照れる。私は優位な気分になって彼女の頭にキスをする。
あとはいつもの流れ。
ボディソープでお互いの体を洗いっこ……これ結構やばい。
シャンプーは私がしてあげる。
そして泡でモコモコの湯舟にドボン。
ボディソープもシャンプーもトリートメントもバスバブルもすべて、リリンが働いているお店のもの。彼女の家名の通り、ラベンダーの香りがする。
二人で入る狭さが心地いい。
魔女っ娘はニコニコしながら、お湯の中で私の胸をプニプニする。
私も負けずに指で水鉄砲をして応戦する。
リリンのこと、子供扱いしてるけど……ほんとは何歳なんだろう? 私より年上って可能性もある。
胸もソコソコ出てるし……アソコはツルンとしてるけど、それは手がかりにはならないな。
マンガとかだと魔女の年齢は一桁、いや二桁違うってこともあるし。
「今週も忙しかったねー」
私が妄想していたら、割と普通にリリンが話しかけてきた。その声は狭いバスルームでポワンと響く。
「そ、そうね。それに、土日はあっというまに過ぎちゃうけど、月曜から金曜って長いよね、ほんと待ち遠しかった」
「へえ、人間って面白いね、時間が伸び縮みするの?」
「いや、気持ちの問題ってやつだけど」
「へーそうなんだ」
魔女っ娘は、時間に対してそんな感覚は持たないんだろうか?」
「そういえばさ、人間の世界の一週間ってね、ボクの故郷の魔界では一日なんだ」
「……どういうこと?」
「時差があるんだ……時差と言っても、地球上のいる場所で違う時間差のことじゃなくてね。地球と魔界では時間の長さがちがうんだ。地球上で七時間が僕の故郷では一時間。ほら、ボクがココに初めて来たころ、魔界に買い物氏に戻った時、ボクがいないって大泣きしてたじゃん? あの時だって向うにいた時間はたった一時間くらいだよ」
「大泣きなんて、人聞きの悪い!……えーっと、そうすると、地球私たちが一週間働いているのに、魔界では一日しかたってないということ?」
「そういうこと」
私は、リリンが働き過ぎていないか気遣う。
「そしたら、魔界の一日分で、一週間働きっぱなしなの?」
「確かにそうなんだけど、こっちにいると時間の流れは人間と変わらないよ。それに夜寝てるし、週末は非番だし」
「だといいけど……あ、向うに帰ると、一日しか経ってないんでしょ? 何か得した気分じゃない?」
「そうかな? ああ、確かに人間よりも年を取るスピードは七年分遅いね」
そこで思いつく。私が日ごろ知りたくてリリンに聞いてもなかなか教えてくれない謎が解けるかもしれない。
「リリンって、魔界で生まれてから、何年経ったの?」
「ははは、それは秘密さ。だってその年数に七をかけたら僕の『地球での換算年齢』がわかっちゃうじゃない」
「ばれたか……でも何でそれを隠すの?」
「いやだって、もしボクがコハルより、ずーっと年下でも、ずーっと年上でも引かれちゃうんじゃないかって思ってね」
「引いたりなんかしないわ。でも、どっちかっていう可能性が高いわけね……で、どっち」
「教えなーい」
「イジワル!」
と言いながらジャレあい、いつものように第一回戦が始まる。
前から思うんだけど、『アルメリナのアロマショップ』で売っている入浴剤、保温効果、疲労回復だけでなく、絶対何か怪しい成分が入っている。だってほら。リリンが攻めてきても、止められない。むしろ積極的に受け入れてしまう……
ノボセ気味でお風呂から上がり、テレビを見ながら夕ご飯を食べる。
リリンが『現実イベントの悪夢変換魔法』をかけ、できた悪夢をバックンに食べさせ。
寝支度を済ませて、二人でベッドに入る。
入浴剤の『温浴効果』と『謎の効果』はまだ持続している。
週末は時間を忘れ、どうしても長くなってしまう。
二人でじゃれ合った快感、満足感と、心地よい疲労感を感じながら、腕の中に魔女の娘?子?を抱く。
意識が朦朧とし、夢見心地でつぶやく。
「時間の流れが違う世界か……一度、リリンの故郷に行ってみたいな」
「うん、今度連れてってあげるよ……魔法と冒険の国へ」
「楽しみにしてる……おやすみ」
「おやすみなさい」
#魔界と現世、温度差ありすぎ
「ねえ、こないだボクの生まれ故郷に行ってみたいって言ってたよね?」
土曜の朝、遅い朝食をとっていると、リリンこと、アルメリナ ラベンダー リリーネは、そう切り出してきた。
「うん、一度行ってみたい」
そうは言ったものの、魔法使いでサキュバスが暮らす世界、地球よりも時が経つのが七倍も遅い世界。やっぱりちょっと恐い。現世の人間が踏み入れてもいい世界なんだろうか。
「今日これから行ってみない?」
リリンはマグカップのミルクをぐいと飲み干し、口のまわりに白い輪っかをつけて言った。
「え! これから?……どのくらいの時間いるつもり?」
あまり滞在時間が長いと、こっちに戻ったら随分時間が経ってしまう。例えば、彼女の話に夜と、まる一日魔界で過ごして戻ったら、戻ってきたら現世では一週間分時が過ぎている。
いきなりそんなに有給はとれない。
「できれば夏休みとかにしない?」
「向こうにいるのは、ほんのちょっとの時間だよ……三十分くらい。ちょっと試したいことがことがあってさ」
「今から行って戻ったら夕方にもなってないか……いいけど、何を試すの?」
「サウナのアロマオイル」
「アロマオイルって、リリンが働いているお店で売ってるもの?」
彼女は『アルメリナのアロマショップ』という、アルメリナという一族が経営するお店で、アロマ関連のアイテムを売っている。リリンの生まれ故郷で製造しているはずだ。
「いや、違うんだ。実はサウナ用のアロマオイルは取り扱ってなくてね。こっちで売っているものをボクの国に逆輸入できないかって計画があるんだ」
※このあと、イケメン魔王子、フラゴル降臨の話へと続いてきます……行く予定です。
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「ところで、なんだけど」
彼女と出会ってしばらく経ったある日。
いつの間にか同居人、いや同棲人(恋人?)になったリリンに尋ねる。
「うーん、なーに?」
私と同じ布団で寝ているその子が、布団からひょっこり顔を出す。
「あなたたち二人は足りているのかしら」
「なんのことだろー?」
とぼけているが、尻尾があるならパタパタ振っているところだろう。
「あ、あの、その……生きていくために必要なもの。私の……その……」
「ああ、その話か」
魔女っ娘はようやく布団から上半身だけ抜け出してきた。虹色にぼんやり光るパジャマが可愛い。私とお揃いなのが照れるけれど、この光のおかげで夜トイレに行くときも怖くない。
「それなら、コハルのが溢れるほど……毎晩毎晩、ごちそうさまです」
彼女はペロリと舌なめずりをした。
「ちょっ、ちょい待ち!
それ以上は具体的な感想言わないで! ストップ!」
「え、わかったの?」
「……うん、足りてるってことでしょ?」
「うん。問題ないよ。むしろ過剰摂取で太っちゃうかも」
「ならいいけど、バックンの方はどうかしら?」
『夢探し』をしながらリリンと一緒にやってきた獏のバックンは、悪夢を食べて生きる糧としている。
「ああ、そっちも大丈夫。コハルが毎晩、仕事のトラウマとか将来の不安とか、上質なドロドロの悪夢をみてくれてるから、全然余裕!
最近毛並みが良くなったでしょ?」
確かにベッドの足元で丸まっている白黒ツートンの謎のイキモノは、ツヤツヤと輝き、余裕を見せてぐっすりと寝ている。
私の心の闇が、彼らの栄養になっている。なんだか複雑だけど、役に立っているなら、まあいいか。
日中は公私ともに悪いことばかりが続いていて、その分、夜に『いい夢』をみてメンタルの平静を保っていた私。
そこにリリンが現れ、彼女の魔法で、現実と夢を逆転してくれるという。
そうやって生まれた悪夢は、バックンが食べてくれる。
で、対価としてリリンに私の『愛』を提供している。
私とリリンとバックンは、こういう微妙なバランスのもと、関係を保っている。
名付けて『愛のエコ×エロシステム』。
だから、たやすくこの均衡が崩れてしまうのではないかと恐れている。この魔女っ娘さんがどう思っているかは知らないけれど、私にはかけがえのない大切な人なのだ。
「あのね、今日、ボク出かけるんだ」
「え、どこに?」
考えているそばからこの子、不安の種をばら撒いてきた。今まで私が仕事に出かけている間、彼女とバックンは部屋の中で過ごしていた。たまに近所の公園やコンビニに出かけているらしいが。この間なんて、コンビニの肉まんを魔法で温め直そうとしてボヤ騒ぎを起こしかけたばかりだ。
「仕事を始めるんだ」
「仕事って……お金がいるの?
言ってくれれば出すよ」
「そうじゃなくってね、ボクたち種族の天職なんだ。修行もしなきゃいけないし」
「?」
スマホのアラームが鳴る。やばい。このままベッドでゴロゴロしながらイチャイチャ話していると遅刻する。
私は慌てて支度をし、リリンの頬に「行ってきます」のキスをして(これは最近の日課だ)、部屋を飛び出した。
「じゃ、お先にいってきます。出かけるんなら気をつけるのよ。人前で浮いちゃダメだからね!」
「わかった。いってらっしゃい!」
彼女がどんな仕事を始めるのか気になったが、聞くことはできなかった。
◇ ◇ ◇
その日の夜八時頃。
疲れを背負ったまま部屋に戻ると、リリンはまだ帰っていなかった。うす暗い部屋の床で、バックンが一匹、ゴロゴロと転がって遊んでいた。
ひんやりとした、リリンのいない部屋。
私の胸の中に重くて冷たい液体がにじんできた。
仕事中も、スマホが気になって仕方がなかった。『今、何してる?』『ご飯食べた?』『変な人に声かけられてない?』と送りたくても、彼女はスマホを持っていない。
つながれない不安が、ボディブローのように効いてくる。
まさか、バックンまで置いて一人でどこかへ行っちゃわないよね?
思わずウルっとしながら見つめると、彼は仰向けのまま小さな黒い目で私を見つめ返した。
「ねえ、リリンがどこにいるか、知ってる?」
バックンはしばらく静止していたが、やがてコクンとうなずいた。
「お願い……そこに連れていって」
彼はノソノソと玄関に向かった。慌ててあとを追う。
ドアを開けると彼はピョコンと飛び出し、宙に浮いた。スルスルと地上一.五メートルの高さを前に進む。私は離されないように小走りでついていく。夜の住宅街を、宙に浮く小動物を追いかける女。通報されませんように。
隣駅の方まで連れられてくると、商店街のはずれに風変わりな一軒家があった。
北欧風の少し古ぼけた木造の建物。窓から薄いオレンジの明かりが漏れている。煙突からは甘い香りの煙がたなびいている。
ドアの上には『アルメリナのアロマショップ』と、舌を噛みそうな店名の看板がかかっていた。
扉が開き、二人組の女性が出てきた。手に手に虹色の手提げ袋を持っている。
「いい香りねえ」「なんか若返った気がしない?」
バックンはドアの隙間にスッと入っていく。私も彼に続いた。
「いらっしゃいませー」
複数の女性の声が迎えた。彼女たちの制服は、カラフルなストライプのブラウスに、ダークグレーのプリーツスカート。カフェの店員さんのようで可愛い。
看板の通り、店内は様々な香りが渾然一体となって漂っている。
「あっ、コハル⁉」
奥の薄紫色のコーナーから声がした。リリンだ。みんなと同じ制服を身につけている。ケモミミ帽子は脱いでいるが、髪色は目立っている。
彼女は駆け寄ってくると、バックンのおでこをコツンと小突いた。
「こら! あれほど連れてきちゃだめって言ったのに」
いまいち状況がわからないが、リリンはこの場所に私が来ることを望んでいなかったらしい。
「もうすぐお店終わるからさ、『外で』待っててくれるかな?」
「えー!
せっかくだからお店の中をみて回ってもいいでしょ。なんで外?」
「……それは……じゃあ、ボクの売場に来て」
可愛い店員さんは私の手を引いて奥にぐいぐい進む。その手の温かさにホッとする。
そこはラベンダーのコーナーだった。
この一角は、柔らかで優しい香りが漂っている……そうだ、これはリリンと同じ香りだ。
ちょっと照れて頬を染めた彼女は、やや緊張しながら商品の説明をする。
「えっと、このアロマオイルは、安眠効果があって……こっちのキャンドルは、リラックス効果が高くて……」
そうか、今日は仕事の初日なんだ。一生懸命働いている姿に、なんだか保護者のような気持ちになる。
私はそのたどたどしい説明に頷き、結局、入浴剤とハンドクリームを買って彼女の売り上げに貢献した。
閉店間際に店を出て、リリンを待つ。
「おまたせ!」
リリンが店から飛び出てきた。制服のままだ。
「そんな格好でいいの?」
「うん、他に持ってないし」
返答に困る。この子、本当に洋服を持っていないんだ。
「一緒に帰ろう!」
小さな手を私に差し出してきた。ちょっと冷たいその手をとる。
夜道を二人で歩く。手をつないで。これって、デートみたいだ。
「ねえ、聞いていい? あのお店は?」
「ボクたちの種族の直営店なんだ」
「へえ、同じ種族でアロマの商品を売っているの?」
「うん、製造から販売まで……あっ、特に妖しいものは入ってないよ! 多分」
「ほんとう? 多分って何よ」
私は疑いの目を向け、冗談よと笑う。
「ボクの正式な名前は、『アルメリナ・ラベンダー・リリーネ』。アルメリナは種族の名前でお店の名前。ラベンダーはボクの家系の名前で、歴代の女王の直系なんだ。あ、それでラベンダーのアロマの製造販売を代々担当しているんだ」
さらっと、女王の直系だと言った。
「ねえリリン、ということは、あなたは……プリンセスってこと?」
「ああ、そのうち王位を継ぐときが来るかもね……だから、こっちの世界に来てお店の手伝いをしているのも、見聞を広め王位にふさわしい魔女になるための修行みたいなものなんだ」
「そ、そうなんだ……」
驚きとともに、胸の奥に小さな氷の塊りが生まれたような気がした。
いずれこの子が、王女様になって、遠いところに行ってしまう。元々私のようなしがない会社員とは住む世界が違うんだから。
「ところでリリン、私をあまりあのお店に入れたくないみたいだけど、どうして?」
「えーっとそれは……」
少女は困って下を向く。
「ボクたち一族は、『女の子大好き!』のサキュバスだよ。ちょっとヤバイ子もいて……ほら、カモミールの売り場でニタニタしてた女の子に気がつかなかった?」
「え、そんな子いたっけ?」
「うん……カモミール家のミルラって子なんだけど、コハルを見たら絶対ちょっかい出してくると思って……とられたらやだなって思ったんだ」
そういうことか。嫉妬してくれたんだ。
嬉しくて、私は繋いだ手に力を込めた。
「それはどういうことかな? 『生きる糧』をとられちゃうから? それとも?」
「もう、言わせないでよ! コハルはボクのものなんだから!」
魔女っ娘がパシッと私の背中を叩いた。
そんな二人と一匹が帰る夜道を、冷たい風が吹き抜けた。
「寒くなったり、少し暖かくなったり、最近は着るものが難しいね」
「ボクは魔女服の一張羅しか持ってないよ。これじゃデートも行けないし」
「あ、ごめんごめん……よし、今度のお休み、一緒に洋服買いに行こう。リリンに似合う服、私がコーディネートしてあげる」
「やった! 約束だよ!」
再び手をつなぐ。さっきよりも強く。
「コハル……今夜は、買ってくれた入浴剤で一緒にお風呂に入ろうよ」
「いいけど、いつもそうしてない?」
「今日は特別」
「どうして?」
「……だって、今夜から明日、多分『コハル日和』だよ」
「誰がうまいことを言えと!」
お湯をためた浴槽に薄紫のアロマのボールを放り込み、私たちは秋と冬の間のバスタイムを楽しんだ。
いつまでもブクブクと香りの泡を生み出す入浴剤。
きっと何か妖しい魔法がかかっているに違いない。だって、いつもよりリリンの肌が熱くて、私の心臓もうるさいくらいに高鳴っているから。
#魔界と現世、時間の長短
サキュバスで魔女っ娘のリリンと獏の子バックンが私の部屋で居候を始めて、あっという間に三か月が過ぎた。
いや、『あっという間』という表現が正しいのだろうか。あの娘たちと居ると、思いもよらないハプニングがあったり、かと思うとマッタリする時間があったり……そしてエッチタイムがたっぷりあったりと、いろんなイベント盛りだくさんなので、早いんだか遅いんだか、いまいちよくわからない。
あ、何も本能・性欲にかられてエッチなことをたっぷりしているわけではない、念のため。必要性『も』あってのことだ。
以前の私は悪運だらけの人生だった。
会社では不可抗力のミスが連続して上司に怒られっぱなしだし、社内の人間関係もうまくいってなかった。両親とはソリが合わなくて家を出た。そしてつきあってた彼氏と楽しい同棲生活! って思った瞬間にあっさりとフラれてしまった。
そんな時に何の脈絡もなく現れたのが、リリン。彼女の正式な名前は『アルメリナ ラベンダー リリーネ』といってサキュバスという悪魔、かつ魔女の一族の娘だ。
私は不幸な毎日を送っていたが、それを補うように、寝ている時はいつもいい夢を見た。
そこで、リリンは魔法を使って、私の悪夢のような現実と『良い夢』を入れ替えた。
そうすると夜中は悪夢を見ることになるが、その前にリリンが連れてきた獏のバックンが食べてくれる。
そうすると夜は何も夢を見なくなるわけだけど、その時間をリリンにあげる。
私と魔女っ娘はエッチなことをして、彼女は私の雫(ああ、恥ずかしい!)をゲットし、生命や魔力の糧にしているのだ。
ソレはリアルでいたしていることなのだが、いつも夢見心地なので、いわゆる『淫夢』と言われるものなのかもしれない。
こうやって、私とリリンとバックンの、持ちつ持たれつ? ウインウイン?のエコシステムが成り立っている。
一応、お互いの利害が一致してリリンと契約しているから、これ以上『魂』を寄こせなんて言われることはないようだ。
彼女はからかい気味に『エコシステムというよりエロシステムじゃない?』と言ってイシシと笑う。
「ただいまー、ふう、やっと週末だー」
私は、部屋に入ると鍵を閉め、コートを着たままソファーに倒れ込む。『ただいまー』と言ってみたものの、部屋に居るのはバックンだけ。彼(多分)はマットが敷いてある自分のナワバリで寝ていたが、半目を開けてまた寝てしまった。バックンの飼い主?相棒? のリリンは少し前から、彼女の一族が地球で経営している、(謎の)アロマ専門店『アルメリナのアロマショップ』で週五日で働き始めた。今日もそろそろ帰って……
「お疲れー、コハル! ボクも疲れたよー」
「ちっ、ちょっと」
ソファーで仰向けになっている私の上にいきなり現れ、そのまま抱きつく。
彼女は鍵が無くても部屋に入れるので、いつも帰宅方法はこんな感じだけど、その唐突さにはなかなか慣れない。
「ねえねえ、お風呂入ろ、お風呂!」
「ごはんは? 今日は疲れたからデパ地下で買ってきたけど」
「あとあと!」
疲れたと言ってたくせに、そそくさと風呂場に行き、お湯を溜め始める。
しょーがないなーとブツブツ言いながら、ダラダラとコートを脱いでラックにかけていると、背後から文字通り魔の手が忍び寄ってきた。
「こらこら自分で脱ぐから! だいたい、まだお湯が溜まってないでしょ?」
「早く早く!」
魔女っ娘の脱衣は早い。指をパチンと鳴らすと、スッポンポンになって、何も隠さない。
青く光る長い髪。子供の背丈ながら、わりと凹凸のある、きめ細かな色白の肌。
その姿を見て不覚にも私の気も急く。
彼女を脱衣所で捕まえると、彼女の髪をヘアクリップに挟んでまとめてあげた。
この時はなぜか魔女っ娘も照れる。私は優位な気分になって彼女の頭にキスをする。
あとはいつもの流れ。
ボディソープでお互いの体を洗いっこ……これ結構やばい。
シャンプーは私がしてあげる。
そして泡でモコモコの湯舟にドボン。
ボディソープもシャンプーもトリートメントもバスバブルもすべて、リリンが働いているお店のもの。彼女の家名の通り、ラベンダーの香りがする。
二人で入る狭さが心地いい。
魔女っ娘はニコニコしながら、お湯の中で私の胸をプニプニする。
私も負けずに指で水鉄砲をして応戦する。
リリンのこと、子供扱いしてるけど……ほんとは何歳なんだろう? 私より年上って可能性もある。
胸もソコソコ出てるし……アソコはツルンとしてるけど、それは手がかりにはならないな。
マンガとかだと魔女の年齢は一桁、いや二桁違うってこともあるし。
「今週も忙しかったねー」
私が妄想していたら、割と普通にリリンが話しかけてきた。その声は狭いバスルームでポワンと響く。
「そ、そうね。それに、土日はあっというまに過ぎちゃうけど、月曜から金曜って長いよね、ほんと待ち遠しかった」
「へえ、人間って面白いね、時間が伸び縮みするの?」
「いや、気持ちの問題ってやつだけど」
「へーそうなんだ」
魔女っ娘は、時間に対してそんな感覚は持たないんだろうか?」
「そういえばさ、人間の世界の一週間ってね、ボクの故郷の魔界では一日なんだ」
「……どういうこと?」
「時差があるんだ……時差と言っても、地球上のいる場所で違う時間差のことじゃなくてね。地球と魔界では時間の長さがちがうんだ。地球上で七時間が僕の故郷では一時間。ほら、ボクがココに初めて来たころ、魔界に買い物氏に戻った時、ボクがいないって大泣きしてたじゃん? あの時だって向うにいた時間はたった一時間くらいだよ」
「大泣きなんて、人聞きの悪い!……えーっと、そうすると、地球私たちが一週間働いているのに、魔界では一日しかたってないということ?」
「そういうこと」
私は、リリンが働き過ぎていないか気遣う。
「そしたら、魔界の一日分で、一週間働きっぱなしなの?」
「確かにそうなんだけど、こっちにいると時間の流れは人間と変わらないよ。それに夜寝てるし、週末は非番だし」
「だといいけど……あ、向うに帰ると、一日しか経ってないんでしょ? 何か得した気分じゃない?」
「そうかな? ああ、確かに人間よりも年を取るスピードは七年分遅いね」
そこで思いつく。私が日ごろ知りたくてリリンに聞いてもなかなか教えてくれない謎が解けるかもしれない。
「リリンって、魔界で生まれてから、何年経ったの?」
「ははは、それは秘密さ。だってその年数に七をかけたら僕の『地球での換算年齢』がわかっちゃうじゃない」
「ばれたか……でも何でそれを隠すの?」
「いやだって、もしボクがコハルより、ずーっと年下でも、ずーっと年上でも引かれちゃうんじゃないかって思ってね」
「引いたりなんかしないわ。でも、どっちかっていう可能性が高いわけね……で、どっち」
「教えなーい」
「イジワル!」
と言いながらジャレあい、いつものように第一回戦が始まる。
前から思うんだけど、『アルメリナのアロマショップ』で売っている入浴剤、保温効果、疲労回復だけでなく、絶対何か怪しい成分が入っている。だってほら。リリンが攻めてきても、止められない。むしろ積極的に受け入れてしまう……
ノボセ気味でお風呂から上がり、テレビを見ながら夕ご飯を食べる。
リリンが『現実イベントの悪夢変換魔法』をかけ、できた悪夢をバックンに食べさせ。
寝支度を済ませて、二人でベッドに入る。
入浴剤の『温浴効果』と『謎の効果』はまだ持続している。
週末は時間を忘れ、どうしても長くなってしまう。
二人でじゃれ合った快感、満足感と、心地よい疲労感を感じながら、腕の中に魔女の娘?子?を抱く。
意識が朦朧とし、夢見心地でつぶやく。
「時間の流れが違う世界か……一度、リリンの故郷に行ってみたいな」
「うん、今度連れてってあげるよ……魔法と冒険の国へ」
「楽しみにしてる……おやすみ」
「おやすみなさい」
#魔界と現世、温度差ありすぎ
「ねえ、こないだボクの生まれ故郷に行ってみたいって言ってたよね?」
土曜の朝、遅い朝食をとっていると、リリンこと、アルメリナ ラベンダー リリーネは、そう切り出してきた。
「うん、一度行ってみたい」
そうは言ったものの、魔法使いでサキュバスが暮らす世界、地球よりも時が経つのが七倍も遅い世界。やっぱりちょっと恐い。現世の人間が踏み入れてもいい世界なんだろうか。
「今日これから行ってみない?」
リリンはマグカップのミルクをぐいと飲み干し、口のまわりに白い輪っかをつけて言った。
「え! これから?……どのくらいの時間いるつもり?」
あまり滞在時間が長いと、こっちに戻ったら随分時間が経ってしまう。例えば、彼女の話に夜と、まる一日魔界で過ごして戻ったら、戻ってきたら現世では一週間分時が過ぎている。
いきなりそんなに有給はとれない。
「できれば夏休みとかにしない?」
「向こうにいるのは、ほんのちょっとの時間だよ……三十分くらい。ちょっと試したいことがことがあってさ」
「今から行って戻ったら夕方にもなってないか……いいけど、何を試すの?」
「サウナのアロマオイル」
「アロマオイルって、リリンが働いているお店で売ってるもの?」
彼女は『アルメリナのアロマショップ』という、アルメリナという一族が経営するお店で、アロマ関連のアイテムを売っている。リリンの生まれ故郷で製造しているはずだ。
「いや、違うんだ。実はサウナ用のアロマオイルは取り扱ってなくてね。こっちで売っているものをボクの国に逆輸入できないかって計画があるんだ」
※このあと、イケメン魔王子、フラゴル降臨の話へと続いてきます……行く予定です。



