やっぱり夜久先輩はひょうひょうとしているから、その言葉が本当なのか、うたがう気持ちもすこしだけある。
だってわたしは、声が出せないほどドキドキしているのに。
夜久先輩はいつもどおりの笑顔で、わたしをまっすぐに見つめていた。
「いい?」
ささやくように聞かれて、わたしはやっとの思いで、あごをすこしだけ引いた。
それがちゃんと、肯定の気持ちだって伝わったのか、夜久先輩はもう一度、今度はわたしのほおにキスをする。
「や…やく、せんぱい…っ」
「名前で呼ばれたら、名前で呼ぶのが礼儀じゃない?星乃」
「~~っ…」
ぜんぜん言いたいことが言えないのに、そんな要求をされても。
わたしは、はく、と口を動かして、声をしぼり出すように、先輩の名前を呼んだ。



