【SS集】クリスマスに甘い恋を。



「お父さんに、追い出されて…帰ってきたら、殺すって…」




 ぽつり、ぽつりと口にすると、急に視界がぼやけて、ほおの上を(なみだ)がすべり落ちていく。

 泣くのなんて、何年ぶりだろう。

 ただ、そんなことを思った。


 ポン、ポン、と頭に乗った温かい重みの正体も、最初はわからなくて。




「そう。ひどい親だね」


「っ…」




 視線を上げて、音無さんの手が私の頭上へ伸びていると気付いてから、ツンと、鼻の奥が痛くなった。

 ゆっくり頭をなでる手の温もりが、体内に浸透(しんとう)してくるようで。

 まるで氷が溶け出すみたいに、涙があふれて止まらない。




「よし、よし。…きみ、ほんと捨てネコみたいだね。僕が飼ってあげようか?」


「…え?」




 飼う?

 きょとんと、にじんだ視界の向こうにいる音無さんを見つめると、「総長」と周りから声が聞こえた。