気だるげな低い声でそう言われて、無意識に視線を上げる。
音無さんはマグカップを持ちなおして、コク、とまた一口ココアを飲んだ。
私はただ、音無さんがゆっくりココアを飲むようすを見つめていることしかできなくて。
ヒソヒソとしゃべる、周りの人たちの小さな声が、ざわつく私の胸中を音に変えているみたい。
持ち上げられたマグカップを見るたびに、迷いのような、葛藤のようなような気持ちがふくらんでいく。
音無さんが大きくマグカップをかたむけ、のど仏を上下に動かしたとき、私は「そ、の…っ」と声を発していた。
「家、に…居場所が、ないんです…」
ゆっくりと言葉を吐き出す私が、どこか自分じゃないように感じられる。
どうして私は音無さんに、こんなことを話しているんだろう?
そんな疑問は、しずかに私を見つめる焦げ茶色の瞳を見たら、スッと溶けていった。



