思わず顔を上げた私の鼻先に、コーヒーの香りが通り抜けていく。
私と同じように、どことなくたれ目を丸くして、開いた窓から私を見下ろしていたのは――すべてを忘れ、ただ見惚れてしまうほどにきれいな男の人。
くるくるとカールした黒髪の下で、焦げ茶色の瞳と視線がからみ合った瞬間、私の呼吸は止まったような気がした。
「…なに、きみ。どうしたの?」
「あ…ごめん、なさい…っ」
どこか気だるげな声をかけられて、早く別の場所に行かなきゃ、と我に返る。
パッと立ち上がることが理想だったのに、凍え切った体は思う通りに動かなくて、逆につんのめり、転んでしまった。
「いつっ…」
「うわ…大丈夫?」
「そうちょ~、なにしゃべってんの?」
「外になんかいる。連れてきて」



