廊下にひびいたガチャリという音を聞いて、思わず体が固まった。
あぁ、もっと早くトイレを出ればよかった、なんて、今さら後悔しても遅い。
玄関から入りこむ冷えた空気が、普段着にもなっている制服をすり抜け、肌をなでる。
「ただいま~!…あ?おまえ、なんでいるんだよ?」
「ご、ごめんなさい…今すぐ部屋に…」
鼻の頭を赤くした父と、バチッと視線が交わってしまって、あわてて顔をうつむけた。
これ以上父の怒りを買う前に、早足で自分の部屋にもどろうとしたけれど、「おい」と強い口調で呼び止められる。
「なに居座ろうとしてるんだ、さっさと出てけ!我が物顔で家のなかうろつきやがって、おまえの顔見たら吐き気がするんだよ!」
怒鳴りながら土足で上がってきた父に腕をつかまれ、玄関のほうへひっぱられた。
痛い、と思わず目をつぶると、「どうしたの、パパ?」と妹の声が聞こえてくる。



