こじらせCEOの壮大すぎる初恋計画 〜冷徹ライバルからの理不尽な政略結婚は、22年分の重すぎる独占欲のせいでした〜

「どうして知っているんだろう?」
 遥は夜景が見えるソファーに腰掛けながらぼんやりと雨の街を見下ろす。
 
 あのタルタルソースはきっと我が家だけだ。
 子どもの頃、玉ねぎが嫌いだった私のために母が作ってくれたもの。
 外食しても唐揚げにタルタルがついていることはあまりない。
 エビフライがセットだったらピクルスと玉ねぎのタルタルソースがついていることはあるけれど。
 
「何者?」
 昔、父にお世話になったと言っていたけれど、タルタルソースまで話す?
 取引先に名前はなかったけれど、プライベートの友達というには年齢も離れている。
 いつ知り合ったのかも教えてくれなかったし、どういう知り合いなのかもきっと教えてくれないのだろう。
 
『明日、富樫と肉フェス』
 遥のスマートフォンに肉フェスのチラシと佐久間からのメッセージが表示される。

『俺ら朝からビール飲みながらここにいるからさ。来れたら来いよ!』
 一緒に行こうではなく、来れたらと書いてくれるなんて佐久間らしい。
 富樫は強制参加だ。

「行ってもいいかな」
 ビールは飲まないけれど、黒毛和牛食べ比べはしてみたい。
 ひとりではそんなに食べられないけれど、佐久間と富樫と三人なら最低三種類は食べられるということだ。

 遥はスマホに肉フェスのチラシを表示し、メモに「明日、会社の人と行ってもいい?」と書いた。
 リビングに向かい、オンライン会議中の隼人にスマホとメモを見せる。

 一瞬驚いた顔をしていたが、隼人はうんうんと頷いてくれた。
 遥は声を出さないように口だけで「ありがと」と伝え、また自分の部屋へ。

『行く! ステーキ食べ比べ!』
『よっしゃ! 食いまくるぞ』
 富樫も入れた『肉フェス食い倒れ』という謎のグループがすぐに作成され、どの肉に並ぶか話が進んでいく。
 店を検索し、口コミを見ながら相談し合う。
 久しぶりのイベントに遥は心を躍らせた。

    ◇

 朝、リビングに行くと隼人はまだパソコンの前だった。
 ダイニングは綺麗に片付いていたので夕食はあのあと食べたみたいだが、眠ったかどうかは怪しかった。

 朝食はいらないと断ってしまった。
 肉フェスでたくさん食べるからと。
 普通に「いってらっしゃい」と送り出されたので、実はちょっと拍子抜けだった。
 半年間は出かけるのも自由にできないのかと思っていたけれど、そうではなさそうだ。

「ハルカ! こっち、こっち!」
 日陰の席を取っておいたぞと手を振る佐久間を見つけた遥は、今買ってきた黒毛和牛のレアステーキを持ちながら合流した。

「うまそ」
「富樫は?」
「めっちゃ並んでる」
 あそこあそこと指を差された方を見ると、富樫はあと5人目のところにいた。

「ビール買ってくる」
「あ、私は」
「一杯くらい大丈夫だろ」
 冷たいビールで乾杯しようぜと言われた遥は誘惑に負ける。
 佐久間がビールを、富樫が秘伝のたれで食べるローストビーフを手に持って戻ってきたのはほぼ同時だった。

「じゃあ、かんぱーい!」
「何に?」
 富樫のツッコミに笑いながら三人で肉を食べながらビールを飲む。
 朝からビールという背徳感と、お祭りムードな周りの状態に遥のテンションは上がってしまった。