こじらせCEOの壮大すぎる初恋計画 〜冷徹ライバルからの理不尽な政略結婚は、22年分の重すぎる独占欲のせいでした〜

「とにかく暑いからさっさと中に入れなさいよ」
「お断りします」
「なんでよ! 渡部、なんとかしなさい!」
「はい、お嬢様」
 運転手の渡部と呼ばれた男はお嬢様に日傘を手渡すと、遥を押しのけ、建物の扉に手を掛ける。
 だが、渡部が押しても引いても扉は開かない。
 困った渡部は横にスライドまでさせようとしたが、扉が開くことはなかった。

「お嬢様、開きません」
「なんですって? そんなにボロいの?」
 信じられないとお嬢様は遥に軽蔑の目を向ける。
 
「鍵をかけさせてもらったの」
 さっき佐久間に頼んだのだ。
 鍵を閉めて絶対に入れさせないでと。
 そしてもうひとつ――。

 運転手の渡部の電話が鳴り、通話をしながらペコペコとお辞儀をしだす。
 誰もいない方に向かって頭を下げている渡部の奇妙な行動に、お嬢様は首を傾げた。

「お嬢様。旦那様が今すぐ帰るようにと」
「はぁ? まだこの女と」
「これ以上、ツクモソフトに迷惑をかけたら外出禁止だとおっしゃってます」
「なんですって!」
 どういうことなのよと渡部を責めるお嬢様を見ながら、遥は口の端を上げた。

 佐久間に頼んだのは鍵を閉めること。
 そして、先ほど来てくれた山本製薬の広報に連絡し、伊集院製薬の連絡先を聞くことだ。
 時間的にはまだ山本会長と広報担当は一緒のタクシーに乗っているはず。
 伊集院製薬の連絡先を聞かれれば、山本会長が動いてくれるかもしれないという打算的考えだ。

「完璧」
 思わず呟いた遥をお嬢様は悔しそうに睨みつける。

「早く帰った方がいいんじゃない?」
「あー! もうっ! あんたなんて大っ嫌い!」
「私もあなたが嫌いよ」
 不満そうな顔で車に乗り込むお嬢様を遥は手を振って見送ってあげる。

「おまえなぁ、危ないだろう」
 呆れた顔で建物の扉から顔を出す佐久間と、スマホを片手にビクビクしている富樫に、遥は「みんながいるから大丈夫!」と振り返りながら笑った。

「強烈だな。あんなのがお嬢様かよ」
「私も一応お嬢様! 社長令嬢だったわ!」
 ここでみんながドッと笑うのは納得がいかないけれど。

「ハルカちゃん、一応動画撮っておいたから」
「富樫天才!」
 お嬢様とのやり取りをスマートフォンで撮影していてくれるなんて、なんて天才なの!

「佐久間もありがと」
「途中で山本会長に代わったからビビった」
 やっぱり山本会長が伊集院製薬の新社長に連絡してくれたんだ。

「山本会長にもお礼を言わないと」
「あ、このあと別の会議で駆けつけられなくてごめんって言ってたぞ」
「ホント、素敵ね」
 さすがテレビにも出るし、本も出版している有名人だと遥が山本を褒めると、佐久間は微妙な顔をした。

「ちょっと年が離れすぎじゃね?」
「行動力があって頼りになって優しくて素敵でしょ」
 さぁ、仕事、仕事! と遥はみんなに席へ戻るように合図する。
 頭をボリボリ掻きながらなかなか席に座らない佐久間の背中を、富樫はそっと押した。