ハニートラップ


今年の桜前線も、体感より早く訪れた。

2年生最後の朝。
玄関を出ると、家の前に高峰くんが立っていた。


「おはよー、呼水さん。」


首を傾げて悪戯な微笑み。
綺麗な金色の髪がさらりと流れて陽の光に反射した。


「おはよう……でも、なんで?」


訝しみながら道路に出る。
高峰くんが軽い歩幅で目の前に立った。


「そういう気分だったから。」


さらりと言って、私の鞄を奪い取る。
代わりにゆるりと指を絡め取られた。


年中冷たい大きな手。
春先だと、ちょっと寒くなるけど離さない。

ぽかぽかと優しい日向が、繋がる体温をゆっくりと溶け合わせてくれた。


「……高峰くん、学校こっちじゃないよ。」

「いーのいーの。」


手を引かれるまま歩くのは、いつもの道と違う道。

ランドセルを背負って賑やかに走る小学生とすれ違って、
忙しそうなサラリーマンが行き交う大通りを抜けて。


どこへ行くかもわからないまま着いたのは、ほんの小さな公園だった。