夢宮 ーある少女の悪夢晴祓録ー

 たぶん、夕芽という少女は複雑で、俺はその表面しか知らない。


 一際強い風が吹いて、辺りの木々から花びらをさらっていく。

 
「わぁ〜!!」


 肩のあたりで切り揃えられた、夕芽の細い髪が揺れて。

 はしゃいだ声が珍しくて、俺はそっと隣を見遣る。



 夢中で桜を追いかける夕芽の姿が、そこにはあった。



 初めて見た、夕芽の幼い表情。

 どれか1枚でも捕まえようと必死な様子は、小さな子供のそれみたいだ。



 …こんな夕芽、見たことない。



 もっと大人びた子かと思っていた。

 静かに笑う子なのだと決めつけていた。



 弾けるように笑うんだ。

 楽しくて仕方ないとでも言うように、肩を震わせるんだ。



 今の「彼女」と俺の知る「夕芽」が、上手く結びつかなくて。

 そのことがちょっぴり悔しくて。



 ──心の底から、君が知りたいと思った。


 
「…つかまえた!」


 無邪気に笑った、その直後。


 俺が君に一目惚れし直した、その直後。



 
 鮮烈に咲いた生花が、ドライフラワーとして戸棚に仕舞われていくように、ふっと夕芽の表情が抜け落ちた。


「……夕芽?」
「あはっ…すみません、変なところを見せちゃって…」


 そしてまた、いつもみたいに大人っぽい表情で微笑む。



 まるでそれは、幼い心を必死に押し潰しているみたいな。

 夕芽は、無理して笑っている…?


 
 俺の中で、何かが引っかかるような感覚がする。

 
『──強い能力の夢宮ほど、深い悪夢を抱えていると言われておる』


 これは祖父の話を聞いた時と同じ感覚だ。



 もしかして。