夢宮 ーある少女の悪夢晴祓録ー


 そして、夕芽はどの瞬間も夢宮であろうとする。



 いつもと同じ帰り道。

 別れ際に突然、夕芽が俺の瞳を覗き込んだ。



 
 息が、止まるかと、思った。


 
 もうすぐで触れられそうな距離。


 ………夕芽が知りたい。 
 

「湊先輩は綺麗ですね。悪夢がほとんどない」 
「そう?」

 
 だけど、その言葉から。その表情から。彼女は夢宮なのだと悟る。

 ああ、俺の手が届かない場所にいる…と。

 
「はい、透き通っていて、すごく綺麗です」


 今にも忘れてしまいそうなほど、涼やかな笑顔で夕芽はつぶやく。


 何かを諦めたかのような、その瞳の方が綺麗だと、そう思った。


「…悪夢が少ないってどういう状況なの?」
「そうですね……」


 夢宮でいる時の夕芽は、いつもよりも生き生きとして見える。



 夢宮について上手く説明しようと、頭を抱えようが。

 大きな悪夢が生じた感覚に、顔色が悪くなろうが。

 
 自分の身を削ってまで、悪夢を晴らおうが。

 

 
 この仕事をしていたなら、息ができる。

 …そう言っているかのように見えるのだ。