夢宮 ーある少女の悪夢晴祓録ー

「……ははっ、あはははは」


 少女が言うには、縒る必要のある糸が多く散らばっている場所よりも、さらに奥、それも扉の中にあったのだと言う。



 思わず、笑い声が出た。

 
「あ、あの…?」
「いや、忘れられなかったんだなって」 


 何が諦めるつもりだった、だ。


 
 野球は僕の存在証明。

 仮にも、一度人生を懸けたものだ。



 
 怪我したからと言って、はいどうぞと捨てられる訳がないじゃないか。
 

「環境が変わっても、大事なら…、また戻れると私は思います」


 プロじゃなくても。


 野球でも、テニスでも。


「……そう簡単には消えないですから。生きている限りは」
 

 少女は、飢えたような瞳を伏せて、静かに微笑んだ。


 僕もそっと頷き返す。


「うん」

 
 家に帰ったら、やっぱりグローブを探してみよう。


 長いこと手入れもしていなかったから、もうボロボロになっているかもしれないけど。




 だけど、今の僕には、それだけで充分な気がした。