夢宮 ーある少女の悪夢晴祓録ー

 最初は、端から。

 輪郭が分かるようになって、やがて色が鮮明になっていく。



 ぼやけていた気持ちが、少しずつ自分の中で言語化されるのを感じる。
 


 空気に色がついて、感情に名前がついて。


 はっきり、はっきりと。




 ああ、本当は──野球がしたい。

 


 知っていた。

 けど、諦めるつもりだった。


 
 空気だったもやを全体に広げてから、少女の手は組台を掴む。


 カツン、と音を立てて、凄まじい勢いで重り同士がぶつかった。
 


 
 その様子がなぜか火花みたいに感じた。

 
 僕の心に渦巻いたまま、消せなかった火花。
 


 迷いなく組まれていった組紐を、もやに縫いつけて、少女は僕の元まで歩いてくる。

 「渡辺さん、両手を出してください」
「…こう?」 


 言われるがままに手を広げると、少女が今まで何かを施していたそれが落ちてきた。
 

 
 白くて、丸くて、不恰好で、ふわふわとしている。


 赤い線が2本、誇らしげに刻まれたボール。


 
 
 ……その形には、ひどく見覚えがあった。

 
「野球ボール、か」 
「渡辺さんの心の奥にあったものです」


 仕組みはよく分からないけど、あの糸も、このボールも、全て僕の心の中にあったものなのか…?



 だからだろうか。

 僕の中で、複雑に絡み合っていた気持ちが整理されたように感じたのは。

 
「すごく、厳重に仕舞われてあったので、せっかくならお渡しした方がいいかなと」