夢宮 ーある少女の悪夢晴祓録ー

 悔しかった。
 それでも諦めたくはなかった。

 怖かった。
 だからこそ、怪我を恐れて何もできなくなった。



 やっぱり野球は好きで。

 でも、捨て身にならない守備を練習させてもらったけど、何かが足りなくて。


 

 少女の手がバラバラの宙を掴む。
 右上、次は左奥、その次は手前を。


 不思議なことに、空中から、どんどん糸が生まれていく。

 まるで、そこに見えない毛玉があって、そこから糸を引き出しているみたいだ。


 最初は同じ毛玉かとぼんやり想像していたけど、実際に見える色は1本1本違う。


 暖色も、寒色も、明るい色も、暗い色もある。

 

 それらが続いていった先には、例のスピンドルがあって、複数本の糸が縒られていた。 

 様々な色が集められて、ぐちゃぐちゃの黒に変わっていく。

 あれは、何なんだろう。

 どこからやって来たものなんだろう。


 話の最中ではあったけど、気になってしまって。



 思わず、少女に尋ねる。


「…ねえ、その糸は?」
「そうですね…、今はバラバラの方向を向いている気持ちをまとめていて…」


 僕が話しかけると、少女の肩が大きく跳ねた。


 糸縒りの作業に意識を取られているみたいで、ぼんやりとした表情の返事が返ってきた。



 本当に感じたことを、そのまま答えてくれたのだろう。


 バラバラの方向の気持ち…。

 その奥底にある感情が、あの糸だったのか。


「ごめんなさい、こんな説明じゃよく分からないですよね」
「ううん、伝わった」
 

 少女の言葉で、改めて突きつけられた。