夢宮 ーある少女の悪夢晴祓録ー

「本当にすみません……」
「なんで?」
「私、渡辺さんの気も知らずに勝手なこと…」 
「いいんだよ」

 
 少女の言葉に、そっと首を横に振った。



 分かっている。


 人生全てを懸けたからといって、上手くいく保証なんてどこにもない。



 捨て身だったからこそ、得られるものも失うものもある。

 
「今はね、テニス部なんだ」
「……やめてしまったんですか?」 
「怪我をしたから」 


 自分で言うのも何だが、僕には才能があった。


 普通なら間に合わない球を取るための、スライディング。

 危ない状況でも、怪我だけはしたことがなかった。



 攻撃も好きだけど、守備はもっと好き。


 
 小学校では、僕がクラブチームの中で1番だった。

 中学は強豪校だったが、それでも守備は何度も褒めてもらった。 

 高校でも同じ。
 

 
 ……それで食べていけるんじゃないかなと本気で思ったことがある。
 
 そんな夢を見て、バットを振って、1000本ノックをして。 祖母なんかは、孫がもうすぐ有名になるからと言いふらしていたそうだ。


 恥ずかしいからとすぐにやめさせたけど、本当は嬉しくて、照れくさかった。




 …………だけど。 

 
 
 それは、あまりにも突然のことだった。

 
「高2の夏に、大怪我をしちゃってさ」
「そうだったんですね…」
 
 
 輝かしい夢の舞台の1つである、全国大会。

 野球少年なら誰もが憧れる場所。


 この時には監督に徹底的に打撃を鍛えてもらっていたから、選抜メンバーにも選ばれた。


 なのに。
 なのに、僕は大会出場の1週間前に、怪我をした。


 
 よりにもよって、捨て身の守備で。