夢宮 ーある少女の悪夢晴祓録ー

 ラケットを構えて、大きく振る。


 中心に当てられた気がしたが、思うようには飛んでくれない。



 相手が器用に返球してきて、ボールはコートのギリギリに。
 


 相手のマッチポイントという、危機的な状況。

 しかも、隣に並ぶ先輩は引退が迫っている。



 負ければ、そこで最後。


 一昨日の練習で、夜まで必死にラケットを振っていた先輩を、もっと上の方まで連れて行けなくなる。

 

 身長はそれなりにあるから、ここで飛び込めば、届くかもしれない。



 そう思っていたのに、どうしても滑り込む気にはなれなかった。

 遅いと笑われた足で走って、ラケットを握り直す。



 あとちょっと。
 あとちょっと…だったのに、届かない。

 ラケットは虚しく空を切った。


「いやー惜しかったなぁー」
「すみません、先輩…」
「気にすんなって!」

 
 先輩の最後の夏が終わる。


 僕のせいで。



 捨て身になることを、恐れてしまったせいで。