夢宮 ーある少女の悪夢晴祓録ー

 しつこい言葉を振り払うように、ぶんぶんと首を横に振る。


 好きになったら、失うのが怖くなるだけ。

 奪われた時に、立ち直れなくなるだけ。

 

 大切だって認めてしまえば、瞬きの間に壊れてしまう。

 手の届かない、遠くへ行ってしまう。



 それが怖い。

 誰にも、心の底の扉を許したくない。


 だから私は、湊先輩のことなんか、好きじゃない。


「ほんとに、違うんです……」
「夕芽」


 必死に絞り出した言葉に、湊先輩は私の名前を呼んで頷く。
 怖くない。ここにいる。どこにも行かない。好きだ。大丈夫。安心して。


 “ゆうめ”のたった3音の中に、それだけの意味が詰まっている気がした。


「ほらぁ〜、絶対2人付き合ってるでしょって」
「石川、もう喋らないでくれる?」
「は、え、どゆこと?」
 

 湊先輩の手が、私の背中から震えをさらっていく。

 促されるままに深呼吸をして、胸に手を当ててみた。


 
 どくん、とそこには確かに心臓の音がする。


 辛いことがあっても、悲しいことがあっても、変わらないもの。




 湊先輩も、そうだったらいいのに。