夢宮 ーある少女の悪夢晴祓録ー

 “平日だからって兄さんとご飯を食べちゃいけない法律なんてない。たぶん。”


 そう言い張ると、兄さんは私の髪をぐちゃぐちゃにして笑った。
 

『炒飯でもいいか?』
『……うん!』


 ゴツゴツしてて大きな手が、小ぶりなフライパンを握っているところを見るのが、好きだった。



 ハムが何枚か繋がっていたり。

 ご飯が焦げていたり。


 パラパラなんかじゃなくて。

 少し味が薄くて。


 お世辞にも絶品とは言えない。




 でも、温かい。

 1人じゃないから寂しくない。


 夜中に兄さんと食べる炒飯が、間違いなく私の1番好きな食べ物だった。
 
 
『兄さん…つかれてる?』
『…夢乃の目にはそう見えるか?』 


 私には話してくれないけど、会社で大変な思いをすることもあったのだろう。

 数え切れないほどあったのだろう。


 兄さんの優しい瞳の中に、小さな悪夢が滲んでいることがあった。


  
 だから、私はそれを見つけるたびに晴らった。

 兄さんに対してだけじゃなくて、友達にも同じことをした。


 
 兄さんが私のために働いてくれているように、私も兄さんのために働きたい。



 私自身は深い悪夢は抱えていないけど、夢宮としての素質はあると叔母さんが言ってくれた。

 訓練をすれば、ちゃんと強い夢宮になれるって。


 私は、夢宮になるんだって幼心ながらに決めた。
 


 それで稼いで、兄さんに少しでも楽をさせてあげたい。


 早く、早く大きくなりたい。

 働けるようになりたい。


 お金が欲しい。