夢宮 ーある少女の悪夢晴祓録ー


「夕芽が好きだから、俺は夕芽が泣いている時に、慰めたくなると思う」


 慰めなんてしなくてもいい。

 
「夕芽が無理してる時は、抱きしめたくなると思う」


 抱きしめなんてしなくてもいい。



 私は、自分の足で立てる。

 誰にも寄りかからずに、誰も失わずに。


 ずっとそうやって生きてきた。

 だから、私の手を握っている、湊先輩のそれも振り払えるはずなのに。



 ……寒いな、って思った。


「その時に、なんて声をかければいいのか分からないんだ」


 他人にそんなことを言われたのなんて、初めてで。


 大人たちも、家族も、誰ひとり、言ってくれなかったから。



 …もしかして、湊先輩なら。

 この人なら、違うのかもしれない。
 


 
 石でできた階段の頂上に湊先輩が腰掛ける。


 当たり前のようにその隣に座ると、湊先輩が大きく目を見開いていた。



 今の私、何も変なことはしてないよね…?


「湊先輩?」
「夕芽が…隣に座ってくれると思わなくて」


 その横顔は、ほんのりと赤く染まっている。


 逸らされていた瞳と目が合って、心臓がぎゅっとうるさくなった。