駐車場に停めてあったSUVの助手席を開け、どうぞと舞を促す。
「ありがとうございます。失礼します」
舞は丁寧に頭を下げて乗り込んだ。
「えっと、住所を聞いてもいいだろうか? それともワンブロック手前で降ろそうか?」
「いえ、お気遣いなく。住所を申し上げてもよろしいですか?」
「ああ、どうぞ」
大翔は舞が口にする住所をカーナビにセットした。
「じゃあ、出発する」
「はい、よろしくお願いします」
走り出すと、いきなりウインカーと間違えてワイパーを操作してしまい、大翔は顔をしかめた。
「あ……、ごめん」
「いいえ。アメリカ暮らしが長かったんですよね? 日本の車にはまだ慣れませんか?」
「そうなんだけど、運転はちゃんとするから。心配しないで」
「はい、ありがとうございます」
日本の右ハンドルと左車線に早く慣れようと、日帰りの乗務の日は車で通勤しているが、やはり長年の癖はなかなか抜けない。
いつもより丁寧にハンドルを切り、運転に集中していると、舞が控えめに話しかけてきた。
「あの、少しうかがってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「相澤キャプテンは、アメリカでパイロットになられたのですよね?」
「ああ。父親の海外赴任で10歳で向こうに移住した。両親は3年後に帰国したんだけど、俺はそのまま残って全寮制の学校に入ったんだ。大学の時に趣味で自家用操縦免許を取って、そこからエアラインパイロットを目指した」
「そうなのですね。アメリカのパイロットって、どんな感じですか? やはり日本とは違いますか?」
「いや、飛行機の操縦に関しては全く違和感ない。人間の方がどう接していいか分からん」
すると舞は「え?」と顔を上げる。
「なにかお困りなんですか? あ、私は人間ですが、今お困りですか?」
「ん? いや」
「では、なにか他に……。会社に慣れないとか? 分かります。私も初めはオフィスで迷子になって、半泣きになりましたから。広くてどっちから来たのか、分からなくなりますよね」
「そんなことはないけど」
「そうなんですか? あとは、なんだろう……。人の顔と名前が覚えられないとか?」
「それは確かにある」
そう言うと、舞はパッと表情を変えた。
「ですよね! パイロットだけで2千人以上ですよ? CAさんなんて8千人! 覚えられる訳ありません。私、特に顔を覚えるのが苦手なので、いつも必死です」
「ああ、だから間違えたのか」
「え? あっ……」
途端に舞は、気まずそうに顔を伏せた。
「あの時は本当にすみませんでした」
「いや、俺こそごめん。深い意味はないんだ、気にしないで。そう言えば、父親と間違えたってことは、君のお父さんもJWAに勤めてるの?」
「はい、そうです」
その時、カーナビの音声案内が「目的地に着きました」と告げた。
「ここでいいかな?」
「はい、このマンションです。ありがとうございました」
大翔は後部ドアを開けて、舞のフライトバッグを取り出す。
「相澤キャプテン、お疲れのところ送ってくださって、本当にありがとうございました」
「君もフライトお疲れ様。それじゃあ」
「はい、失礼します」
大翔が運転席に乗り込んでドアを閉めた時、「お、舞ちゃん!」と声がした。
窓越しに目を向けると、フライトバッグを引いたワイシャツにスラックス姿の青年が、にこやかに舞に駆け寄っている。
「翔くん、お疲れ様」
「お疲れー。今夜さ、カレー作ってくんない?」
「うん、いいよ」
そう言うと舞は大翔を振り返り、頭を下げる。
大翔はハッと我に返り、軽く手を挙げてからアクセルを踏み込んだ。
「ありがとうございます。失礼します」
舞は丁寧に頭を下げて乗り込んだ。
「えっと、住所を聞いてもいいだろうか? それともワンブロック手前で降ろそうか?」
「いえ、お気遣いなく。住所を申し上げてもよろしいですか?」
「ああ、どうぞ」
大翔は舞が口にする住所をカーナビにセットした。
「じゃあ、出発する」
「はい、よろしくお願いします」
走り出すと、いきなりウインカーと間違えてワイパーを操作してしまい、大翔は顔をしかめた。
「あ……、ごめん」
「いいえ。アメリカ暮らしが長かったんですよね? 日本の車にはまだ慣れませんか?」
「そうなんだけど、運転はちゃんとするから。心配しないで」
「はい、ありがとうございます」
日本の右ハンドルと左車線に早く慣れようと、日帰りの乗務の日は車で通勤しているが、やはり長年の癖はなかなか抜けない。
いつもより丁寧にハンドルを切り、運転に集中していると、舞が控えめに話しかけてきた。
「あの、少しうかがってもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
「相澤キャプテンは、アメリカでパイロットになられたのですよね?」
「ああ。父親の海外赴任で10歳で向こうに移住した。両親は3年後に帰国したんだけど、俺はそのまま残って全寮制の学校に入ったんだ。大学の時に趣味で自家用操縦免許を取って、そこからエアラインパイロットを目指した」
「そうなのですね。アメリカのパイロットって、どんな感じですか? やはり日本とは違いますか?」
「いや、飛行機の操縦に関しては全く違和感ない。人間の方がどう接していいか分からん」
すると舞は「え?」と顔を上げる。
「なにかお困りなんですか? あ、私は人間ですが、今お困りですか?」
「ん? いや」
「では、なにか他に……。会社に慣れないとか? 分かります。私も初めはオフィスで迷子になって、半泣きになりましたから。広くてどっちから来たのか、分からなくなりますよね」
「そんなことはないけど」
「そうなんですか? あとは、なんだろう……。人の顔と名前が覚えられないとか?」
「それは確かにある」
そう言うと、舞はパッと表情を変えた。
「ですよね! パイロットだけで2千人以上ですよ? CAさんなんて8千人! 覚えられる訳ありません。私、特に顔を覚えるのが苦手なので、いつも必死です」
「ああ、だから間違えたのか」
「え? あっ……」
途端に舞は、気まずそうに顔を伏せた。
「あの時は本当にすみませんでした」
「いや、俺こそごめん。深い意味はないんだ、気にしないで。そう言えば、父親と間違えたってことは、君のお父さんもJWAに勤めてるの?」
「はい、そうです」
その時、カーナビの音声案内が「目的地に着きました」と告げた。
「ここでいいかな?」
「はい、このマンションです。ありがとうございました」
大翔は後部ドアを開けて、舞のフライトバッグを取り出す。
「相澤キャプテン、お疲れのところ送ってくださって、本当にありがとうございました」
「君もフライトお疲れ様。それじゃあ」
「はい、失礼します」
大翔が運転席に乗り込んでドアを閉めた時、「お、舞ちゃん!」と声がした。
窓越しに目を向けると、フライトバッグを引いたワイシャツにスラックス姿の青年が、にこやかに舞に駆け寄っている。
「翔くん、お疲れ様」
「お疲れー。今夜さ、カレー作ってくんない?」
「うん、いいよ」
そう言うと舞は大翔を振り返り、頭を下げる。
大翔はハッと我に返り、軽く手を挙げてからアクセルを踏み込んだ。



