Good day ! 6



その日の乗務を終え、羽田のオフィスでデブリーフィングをしていると、運航乗員部長の野中が笑顔で近づいてきた。

「舞ちゃーん、聞いたぞ。相澤くんのこと、お父さんって呼んだらしいじゃない」
「うぐっ、野中さんまでご存じなんですか?」

親しげな舞と野中の様子に、またしても大翔は驚く。

(野中部長とも親しいのか?)

入社面接の時に面接官だった野中は、入社してからも一番お世話になっている上司だ。

大翔がいつも礼儀作法を気にしながら接している野中に対し、舞はにこやかに打ち解けて話している。

(今どきの日本の若い女の子って、みんなこうなのか? それに野中部長も伊沢キャプテンも、彼女をファーストネームで呼んでいる。ひょっとして、そうじゃないといけないとか?)

デブリーフィングより、そちらに気を取られそうになるが、なんとか気持ちを切り替える。

「今日のフライトは、1レグ目も2レグ目も、穏やかで良いフライトだったと思う。君からはなにかありますか?」

とにかく失礼のないようにと、大翔は言葉遣いに気をつけながら尋ねた。

「はい。相澤キャプテンの操縦スキルに感服しました。隣でたくさん勉強させていただきました。これからも日々努力を重ねていきたいと思います。またご一緒させていただく際には、どうぞよろしくお願いいたします。本日はありがとうございました」
「こちらこそ。お疲れ様」

立ち上がるとネクタイと肩章を外し、フライトバッグにしまう。

すると舞も同じようにネクタイと肩章を外して、フライトバッグを手にした。

「ちょっと待って。君、帰りは車?」
「いいえ、電車です」
「まさかそのまま電車に乗るつもり?」
「え? はい」

舞はキョトンと首をかしげる。

「そんな格好で空港から電車に乗ったら、パイロットだと周りに気づかれるだろう?」
「そうですね。それが、なにか?」

いやいやいやと、大翔は正面から向き直った。

「君は女の子なんだから、ストーカーに対してもっと警戒心を持たないとダメだ。電車なんて、不特定多数の人の目につくんだぞ。着替えてから帰れ。……帰りたまえ」

パワハラを思い出し、慌てて言い直す。

舞は困ったようにうつむいた。

「すみません、以後気をつけます。今日は着替えを持って来ていなくて……」
「そうか。それなら車で送る」
「ええ!? まさか。キャプテンに送っていただくなんて、そんなこと出来ません」
「車で送るとパワハラになるのか? それともセクハラ?」
「いえ、とんでもないです」
「それなら大丈夫だろう。行こう」

そう言うと大翔は、背を向けて歩き出した。