春が来た。
高校3年生の春。
桜が咲いてる。
ひらひらと舞う。

「キレイ……」

私は思わずそう呟いて、桜の花びらに手を伸ばした。
今も児童養護施設から高校に通っている。
卒業したら、施設からも出ていかなきゃいけなくなる。
だから、これがきみのそばにいられる最後の年だ。

「灯、おはよ。学校へいこ!」

また今日も、きみが話しかけてくれた。
それだけで自然と笑顔になる。

「朔。おはよう。うん……」

あの日、あの場所で朔の名前だけは思い出した。

ごめんね、朔。
私は朔のことをたくさん忘れてしまった。
朔はずっと私の大切な人だったはずなのに。

「なぁに、暗い顔してんだよ。今日から新学期だろ。楽しくいこうぜ。クラス替えもあるし」

「クラス替え、また栞と一緒になれるかな?」

「なれるよ。文系にしたんだろ?」

「うん。朔はやっぱり特進クラス?」

いつもクラスの女子がキャーキャー言ってるの見るから、朔はきっと頭がいい。

「僕? 分かんないなぁ。僕は頭悪いからな」

「え、そうなの? でも理系だよね?」

「さぁな〜」

何その気のない返事。
朔のこと、分かんないことだらけだからもっと知りたいのに。