凛は、席に座り、周りを見渡した。
教室には、25人ほどの子供たちがいる。
みんな、懐かしい顔。
前の席に座っている女の子。
髪を二つに結んでいる。名前は、川井ゆみ。
いつも明るくて、よく笑う子だった。
後ろの席に座っている男の子。
メガネをかけている。名前は、望月けんた。
算数が得意で、よく凛に教えてくれた。
窓際の席に座っている女の子。
おとなしくて、いつも本を読んでいる。名前は、鈴木あやか。
凛の親友だった。
凛は、一人一人の顔を見ていった。
みんな、覚えている。
みんな、大切な友達だった。
その時、教室の扉が開いた。
吉岡先生が入ってくる。
30代くらいの女性の先生。優しい顔。
凛は、吉岡先生を見て、胸が温かくなった。
この先生、大好きだった。
いつも優しくて、怒る時も、ちゃんと理由を説明してくれた。
「はい、皆さん、席について」
吉岡先生の声が、教室に響く。
ざわざわしていた教室が、静かになる。
子供たちが、それぞれの席に座る。
凛も、姿勢を正した。
「今日は、算数のテストを返します」
吉岡先生は、手に持った紙の束を見せた。
「みんな、よく頑張りましたね。でも、間違えたところは、ちゃんと復習してくださいね」
吉岡先生は、一人一人の席を回りながら、テストを配っていく。
凛の席にも、吉岡先生が来た。
「凛ちゃん、100点よ。すごいわね」
吉岡先生は、笑顔でテストを渡してくれた。
凛は、テストを受け取った。
100点。
赤いマルがいっぱい。
花マルもついている。
凛は、嬉しかった。
子供の頃の、純粋な嬉しさ。
「ありがとうございます」
凛は、小さく答えた。
吉岡先生は、頭を撫でてくれた。
「これからも頑張ってね」
温かい手。
優しい声。
凛は、涙が出そうになった。
でも、こらえた。
隣を見ると、悠真もテストを受け取っている。
悠真のテストには、85点と書かれている。
悠真は、少し残念そうな顔をしている。
凛は、小声で話しかけた。
「悠真くん、85点すごいじゃん」
悠真は、顔を上げた。
「でも、100点じゃないから……」
「大丈夫だよ。次、頑張ればいいんだよ」
凛は、笑顔で言った。
悠真は、少し笑った。
「うん。ありがとう、凛ちゃん」
凛は、悠真の横顔を見つめた。
優しい子。
真面目な子。
凛は、胸が温かくなった。
この子と一緒にいると、心が穏やかになる。
大人の世界で失っていた、何か大切なものを思い出させてくれる。
この時間が、ずっと続けばいいのに。
そう思った。
休み時間になった。
チャイムが鳴り、子供たちが席を立つ。
ざわざわと、教室が賑やかになる。
凛も、席を立とうとした時、悠真が話しかけてきた。
「ねえ、凛ちゃん」
「うん?」
凛は、悠真を見た。
「秘密基地、知ってる?」
悠真は、少し恥ずかしそうに聞いてきた。
「秘密基地?」
凛は、首を傾げた。
記憶を探る。
秘密基地……。
ああ、思い出した。
校庭の隅にある、大きな木の下。
そこに、段ボールで作った小さな基地があった。
「知ってるよ」
凛は、笑顔で答えた。
悠真は、嬉しそうに笑った。
「じゃあ、一緒に行こう! 今日、新しいもの持ってきたんだ」
悠真は、凛の手を引いた。
二人は、教室を出て、校庭へ向かった。
校庭の隅。
大きな木の下。
その木の根元に、段ボールで作った小さな基地がある。
入口には、「ひみつきち」と、子供の字で書かれた紙が貼ってある。
悠真は、基地の中に入った。
「凛ちゃんも、入って」
凛は、少し屈んで、基地の中に入った。
中は、意外と広い。
二人が座れるくらいのスペース。
床には、古い毛布が敷いてある。
壁には、子供の絵が貼ってある。
「ここ、僕の宝物の場所なんだ」
悠真は、嬉しそうに言った。
「誰にも教えてないんだ。凛ちゃんだけだよ」
凛は、悠真を見た。
「どうして、私に?」
悠真は、少し考えてから答えた。
「凛ちゃんは、特別だから」
「特別?」
「うん。凛ちゃんは、優しいし、一緒にいると楽しいから」
悠真は、恥ずかしそうに笑った。
凛は、胸が温かくなった。
「ありがとう」
悠真は、ポケットから何かを取り出した。
小さな貝殻。
「これ、海で拾ったんだ。きれいでしょ?」
悠真は、貝殻を凛に見せた。
白くて、小さくて、きれいな貝殻。
凛は、貝殻を手に取った。
「きれい」
凛は、貝殻を光にかざした。
薄っすらと、虹色に光る。
「これ、僕の一番の宝物なんだ」
悠真は、真剣な顔で言った。
凛は、貝殻を悠真に返した。
「大切にしてね」
「うん」
悠真は、貝殻を大切そうに、ポケットにしまった。
二人は、しばらく秘密基地の中で、おしゃべりをした。
学校のこと。
好きな食べ物のこと。
将来の夢のこと。
凛は、悠真の話を聞きながら、幸せを感じていた。
この時間が、ずっと続けばいいのに。
そう思った。
放課後になった。
凛と悠真は、教室で荷物をまとめていた。
ランドセルに教科書を詰める。
筆箱を入れる。
二人は、一緒に教室を出ようとした時、吉岡先生が声をかけてきた。
「凛ちゃん、悠真くん」
二人は、振り返った。
吉岡先生が、優しい笑顔で立っている。
「二人とも、とっても仲良しね」
吉岡先生は、微笑んだ。
凛と悠真は、顔を見合わせた。
少し恥ずかしい。
「いつも一緒にいるものね。素敵なことよ」
吉岡先生は、二人に近づいた。
「友達って、大切なものよ。これからも、仲良くしてね」
「はい」
凛と悠真は、同時に答えた。
吉岡先生は、二人の頭を撫でた。
「困ったことがあったら、いつでも相談してね。先生は、いつでもみんなの味方だから」
吉岡先生の手は、温かかった。
声も、優しかった。
凛は、その優しさに、胸がいっぱいになった。
この優しさ。
この温かさ。
大人になって、忘れていた。
でも、今、思い出した。
子供の頃、こんなに優しくされていたんだ。
こんなに、守られていたんだ。
凛は、涙がこみ上げてきた。
でも、こらえた。
泣いたら、変に思われる。
「ありがとうございます」
凛は、小さく答えた。
吉岡先生は、もう一度微笑んだ。
「じゃあ、気をつけて帰ってね」
「はい」
二人は、教室を出た。
凛と悠真は、通学路を一緒に歩いた。
校門を出て、住宅街を通る道。
二人は、並んで歩いている。
「今日、楽しかったね」
悠真が言った。
「うん、楽しかった」
凛は、笑顔で答えた。
「明日も、一緒に遊ぼうね」
「うん」
しばらく歩くと、道が二手に分かれる場所に着いた。
凛の家と、悠真の家は、別の方向だ。
「じゃあ、ここでバイバイだね」
悠真が言った。
「うん」
凛は、悠真を見た。
悠真は、笑顔で手を振っている。
「また明日ね!」
「うん、また明日」
凛も、手を振った。
悠真は、走って行った。
その背中が、だんだん小さくなっていく。
凛は、その場に立ち尽くしていた。
手を振りながら、心の中で呟いた。
この時間は、永遠じゃない。
いつか、私は現代に戻らなきゃいけない。
この幸せな時間も、いつか終わる。
凛は、手を下ろした。
空を見上げる。
夕焼けが、空を赤く染めている。
オレンジ色の空。
そこに、雲が流れている。
美しい景色。
でも、切ない。
凛は、家に向かって歩き始めた。
夕焼けの中を、一人で歩く。
影が、長く伸びている。
凛は、振り返った。
悠真の姿は、もう見えない。
凛は、また前を向いた。
この時間を、大切にしよう。
一日一日を、大切にしよう。
そう心に決めた。
教室には、25人ほどの子供たちがいる。
みんな、懐かしい顔。
前の席に座っている女の子。
髪を二つに結んでいる。名前は、川井ゆみ。
いつも明るくて、よく笑う子だった。
後ろの席に座っている男の子。
メガネをかけている。名前は、望月けんた。
算数が得意で、よく凛に教えてくれた。
窓際の席に座っている女の子。
おとなしくて、いつも本を読んでいる。名前は、鈴木あやか。
凛の親友だった。
凛は、一人一人の顔を見ていった。
みんな、覚えている。
みんな、大切な友達だった。
その時、教室の扉が開いた。
吉岡先生が入ってくる。
30代くらいの女性の先生。優しい顔。
凛は、吉岡先生を見て、胸が温かくなった。
この先生、大好きだった。
いつも優しくて、怒る時も、ちゃんと理由を説明してくれた。
「はい、皆さん、席について」
吉岡先生の声が、教室に響く。
ざわざわしていた教室が、静かになる。
子供たちが、それぞれの席に座る。
凛も、姿勢を正した。
「今日は、算数のテストを返します」
吉岡先生は、手に持った紙の束を見せた。
「みんな、よく頑張りましたね。でも、間違えたところは、ちゃんと復習してくださいね」
吉岡先生は、一人一人の席を回りながら、テストを配っていく。
凛の席にも、吉岡先生が来た。
「凛ちゃん、100点よ。すごいわね」
吉岡先生は、笑顔でテストを渡してくれた。
凛は、テストを受け取った。
100点。
赤いマルがいっぱい。
花マルもついている。
凛は、嬉しかった。
子供の頃の、純粋な嬉しさ。
「ありがとうございます」
凛は、小さく答えた。
吉岡先生は、頭を撫でてくれた。
「これからも頑張ってね」
温かい手。
優しい声。
凛は、涙が出そうになった。
でも、こらえた。
隣を見ると、悠真もテストを受け取っている。
悠真のテストには、85点と書かれている。
悠真は、少し残念そうな顔をしている。
凛は、小声で話しかけた。
「悠真くん、85点すごいじゃん」
悠真は、顔を上げた。
「でも、100点じゃないから……」
「大丈夫だよ。次、頑張ればいいんだよ」
凛は、笑顔で言った。
悠真は、少し笑った。
「うん。ありがとう、凛ちゃん」
凛は、悠真の横顔を見つめた。
優しい子。
真面目な子。
凛は、胸が温かくなった。
この子と一緒にいると、心が穏やかになる。
大人の世界で失っていた、何か大切なものを思い出させてくれる。
この時間が、ずっと続けばいいのに。
そう思った。
休み時間になった。
チャイムが鳴り、子供たちが席を立つ。
ざわざわと、教室が賑やかになる。
凛も、席を立とうとした時、悠真が話しかけてきた。
「ねえ、凛ちゃん」
「うん?」
凛は、悠真を見た。
「秘密基地、知ってる?」
悠真は、少し恥ずかしそうに聞いてきた。
「秘密基地?」
凛は、首を傾げた。
記憶を探る。
秘密基地……。
ああ、思い出した。
校庭の隅にある、大きな木の下。
そこに、段ボールで作った小さな基地があった。
「知ってるよ」
凛は、笑顔で答えた。
悠真は、嬉しそうに笑った。
「じゃあ、一緒に行こう! 今日、新しいもの持ってきたんだ」
悠真は、凛の手を引いた。
二人は、教室を出て、校庭へ向かった。
校庭の隅。
大きな木の下。
その木の根元に、段ボールで作った小さな基地がある。
入口には、「ひみつきち」と、子供の字で書かれた紙が貼ってある。
悠真は、基地の中に入った。
「凛ちゃんも、入って」
凛は、少し屈んで、基地の中に入った。
中は、意外と広い。
二人が座れるくらいのスペース。
床には、古い毛布が敷いてある。
壁には、子供の絵が貼ってある。
「ここ、僕の宝物の場所なんだ」
悠真は、嬉しそうに言った。
「誰にも教えてないんだ。凛ちゃんだけだよ」
凛は、悠真を見た。
「どうして、私に?」
悠真は、少し考えてから答えた。
「凛ちゃんは、特別だから」
「特別?」
「うん。凛ちゃんは、優しいし、一緒にいると楽しいから」
悠真は、恥ずかしそうに笑った。
凛は、胸が温かくなった。
「ありがとう」
悠真は、ポケットから何かを取り出した。
小さな貝殻。
「これ、海で拾ったんだ。きれいでしょ?」
悠真は、貝殻を凛に見せた。
白くて、小さくて、きれいな貝殻。
凛は、貝殻を手に取った。
「きれい」
凛は、貝殻を光にかざした。
薄っすらと、虹色に光る。
「これ、僕の一番の宝物なんだ」
悠真は、真剣な顔で言った。
凛は、貝殻を悠真に返した。
「大切にしてね」
「うん」
悠真は、貝殻を大切そうに、ポケットにしまった。
二人は、しばらく秘密基地の中で、おしゃべりをした。
学校のこと。
好きな食べ物のこと。
将来の夢のこと。
凛は、悠真の話を聞きながら、幸せを感じていた。
この時間が、ずっと続けばいいのに。
そう思った。
放課後になった。
凛と悠真は、教室で荷物をまとめていた。
ランドセルに教科書を詰める。
筆箱を入れる。
二人は、一緒に教室を出ようとした時、吉岡先生が声をかけてきた。
「凛ちゃん、悠真くん」
二人は、振り返った。
吉岡先生が、優しい笑顔で立っている。
「二人とも、とっても仲良しね」
吉岡先生は、微笑んだ。
凛と悠真は、顔を見合わせた。
少し恥ずかしい。
「いつも一緒にいるものね。素敵なことよ」
吉岡先生は、二人に近づいた。
「友達って、大切なものよ。これからも、仲良くしてね」
「はい」
凛と悠真は、同時に答えた。
吉岡先生は、二人の頭を撫でた。
「困ったことがあったら、いつでも相談してね。先生は、いつでもみんなの味方だから」
吉岡先生の手は、温かかった。
声も、優しかった。
凛は、その優しさに、胸がいっぱいになった。
この優しさ。
この温かさ。
大人になって、忘れていた。
でも、今、思い出した。
子供の頃、こんなに優しくされていたんだ。
こんなに、守られていたんだ。
凛は、涙がこみ上げてきた。
でも、こらえた。
泣いたら、変に思われる。
「ありがとうございます」
凛は、小さく答えた。
吉岡先生は、もう一度微笑んだ。
「じゃあ、気をつけて帰ってね」
「はい」
二人は、教室を出た。
凛と悠真は、通学路を一緒に歩いた。
校門を出て、住宅街を通る道。
二人は、並んで歩いている。
「今日、楽しかったね」
悠真が言った。
「うん、楽しかった」
凛は、笑顔で答えた。
「明日も、一緒に遊ぼうね」
「うん」
しばらく歩くと、道が二手に分かれる場所に着いた。
凛の家と、悠真の家は、別の方向だ。
「じゃあ、ここでバイバイだね」
悠真が言った。
「うん」
凛は、悠真を見た。
悠真は、笑顔で手を振っている。
「また明日ね!」
「うん、また明日」
凛も、手を振った。
悠真は、走って行った。
その背中が、だんだん小さくなっていく。
凛は、その場に立ち尽くしていた。
手を振りながら、心の中で呟いた。
この時間は、永遠じゃない。
いつか、私は現代に戻らなきゃいけない。
この幸せな時間も、いつか終わる。
凛は、手を下ろした。
空を見上げる。
夕焼けが、空を赤く染めている。
オレンジ色の空。
そこに、雲が流れている。
美しい景色。
でも、切ない。
凛は、家に向かって歩き始めた。
夕焼けの中を、一人で歩く。
影が、長く伸びている。
凛は、振り返った。
悠真の姿は、もう見えない。
凛は、また前を向いた。
この時間を、大切にしよう。
一日一日を、大切にしよう。
そう心に決めた。



