来てくれるのはありがたいけど、どうしよう。
こっちには縄文くんも平安くんもいるのに…!
このふたり、意外と危ないこと言うからな。
ワードチョイスが《アナヒス》の世界の人すぎるし…。
そうだ、まずは令に説明しなきゃだった。
なんて話したらいいか…。
「ねえ、ふたりとも…」
相談しようと隣を見ると、ふたりの姿がない!
どこいった!?
後ろを振り向くと、道場裏の花壇に感動しているふたりの姿が映った。
「縄文くん、これは新種の花ですかね。ラナンキュラスと書いてあります」
「かわいい花だな、いろんな色があるぞ!」
興奮しながら花壇の花々について語っている様子を見て、ひとまず安堵する。
どこにも行ってなくてよかった。
ふたりは令との会話に入ってもらわない方がいいな。
一旦、令和の花壇をネタに盛り上がっていてくれ…。
とにかく私は令と話しをしなきゃいけない。
考えはまとまっていないけど…3人を1秒でも早く家に連れて帰って、これからのことを話し合わないと。
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「ごめん、お待たせ。美琴、大丈夫か?」
「だ、大丈夫。ありがとう」
走って道場の裏側まできてくれた令の顔を見て、その優しい表情に安心する。
剣道部らしい袴姿だ。
いつも令と話しているときのようにできるだろうか。
時代くんたちのことが頭の片隅から離れないから、オドオドしてしまいそうだ。
なんだか隠しごとをしているようで目線を下げてしまう。
「何かあったらすぐに相談しろって言ってるだろ」
何かを察知したのか、令は、私の頭に手をぽんっと優しく置いて、顔を覗き込んだ。
「子ども扱いしないでっていつも言ってるじゃん」
令の手を振り払うと「ごめんごめん」と微笑みかけてくれた。
私のことをいつも妹扱いしてくるのが勘弁だけど、令に触れられるのは嫌じゃない。
「あのさ、令…。一生のお願い聞いてくれない?」
「ははは、一生のお願い、ここで使っちゃうの? いいよ、一生じゃなくても美琴のお願いならなんでも聞くよ」
笑いながら承諾してくれた令。
爽やかイケメンって、こんな感じの人のこと言うんだろうな…。
幼馴染ながら圧巻の優男だ。
「今すぐ鎌倉くんを解放してほしいの。急ぎ、その、相談したいことがあって…!」
「相談? 鎌倉とはどういう関係?」
令は不安そうな顔で私を見ていた。
「い、今は言えない」
いきなりすぎたか。
令も「解放して」なんて、驚くよね。
「…付き合ってる…とか…?」
「はあ!? 違う、それは違う!」
なんだ、その勘違い…。
私が今まで彼氏なんていたことないって知ってるのに。
のんちゃんに恋話をされるときも、この手のことはてんで駄目だし。
それに、令みたいに私は告白されることなんてない。
「なんだ…よかった…そんな血相で、解放してなんていうから」
ふうっと安心したようなため息をついた令。
「鎌倉くんは…ただのクラスメイトだよ…」
自分で言って、少し悲しい気持ちになる。
そう、この世界ではただのクラスメイトだ。
《アナヒス》では一緒に冒険の旅に出るバディーだけど…。
「急ぎ話したいことがあるんだね、それは俺に言えないことなの?」
令が気になるのも無理はない。
でも…。
「うん、今は…。でも…令には…いつか…絶対に話すよ」
「…わかった。いつか、絶対だよ、貸し1だからね!」
ありがとう…令。
「うん…! 何でもする」
「何でもって言ったな! 絶対だぞ!」と、それ以上は聞かないでくれた令。
ほんと、話の通じる幼馴染で助かる…。
「てかさ、鎌倉が素人とは思えない竹刀の扱い方をするんだよ。それで、剣道部に勧誘してたんだ」
「そ、そうなんだ…」
剣道部でも竹刀を振ってしまったのか…鎌倉くんよ。
そりゃ、懇願されるわな。
百聞は一見にしかずだ。
「入るか入らないかは本人が決めることだし、今日は早く帰してやってって部長に話してみるよ」
「お願いします…」
どんどん小さくなる私。
もう、鎌倉くんってば、なんで先輩について行っちゃったかな…。
「美琴は、鎌倉が剣道経験者って知ってたの?」
ドキッ。
突然の令の質問に、心臓の鼓動が速くなる。
さすがに武士だからとは言えない…。
「え、いや! そういうわけじゃなくって…」
どう答えようと思い悩む。
「今朝、1年生を助けた話を美琴さんにしたからですかね」
「鎌倉の腕前を美琴にも見せてやりたかったよな〜」
後ろからひょこっと登場した平安くんと縄文くん。
今回はナイスタイミングだよ、君たち…。
「えっと…」
令が困った顔をして私の方を見た。
あ、そうだよね。
ふたりの紹介をしないと。
「あ、ああ、く、クラスメイトの縄文くんと平安くんです…」
右に縄文くん、左に平安くんとふたりを「どうぞ」という手で紹介する。
「縄文っす!」
「平安と申します」
ふたりとも思い思いにお辞儀をした。
礼儀は心得ているのね…。
「幼馴染の和です。美琴と仲良くしてくれてありがとね。のんちゃんしか友達がいないと思っていたから、なんか嬉しいな」
令がはははと笑いながらふたりをみる。
嬉しいと言いながら目が笑っていないのは気のせいかな…。
「どちらかというと、美琴が俺らのこと世話しているんだけどなーー」と余計なことを言いかけた縄文くんの口をすかさず塞ぐ。
ちょーい!
待て待て待て。
これだから安心できない…。
「ぬぬぬぬぬ」っと塞がれた口をまだ動かす縄文くんの耳元で「ちょっと黙ってて」と強めにいった。
「私たちは校門前で鎌倉くんを待つから、令には悪いけど、鎌倉くんを校門前まで連れてきてくれるとありがたい…です…1秒でも早く…!」
何も説明できてないのに、わがままばっかでごめん…令。
令は不思議そうな顔をしながらも「はいよ、10分後くらいには行けると思うから。また後でね」と道場へ戻って行った。
色々気になることがあるはずなのに…。
過保護すぎて子ども扱いすることだけはやめてほしいけど、それ以外は本当に完璧な幼馴染だ。
「なんか爽やかで腹たつやつだな」
手を腰に当てて、令の背中を目で追う縄文くん。
「あ〜いうタイプがぼくも一番苦手です。サラッとなんでもこなすタイプですよ」
うんうんと頷きながら顎にグーの手をくっつけている平安くん。
「ちょっと、令のこと悪く言わないで。大事な幼馴染なの」
私の話しを聞いているのか聞いていないのか「「はーい」」とハモってふたりが返事をした。
もう…!
ほんとマイペース!
本日何度目のデジャブだよ、と思いながらふたりの手を引いて、校門を目指した。


