待ちに待った放課後。
よし、3人を連れて急いで家へ帰ろう…と思った矢先。
鎌倉くんが中3の先輩に呼ばれて、教室を出ていくのが目に入った。
ちょっと待って、待って!
「縄文くん、平安くん、帰ろう」
後ろの席のふたりをおいていくわけにはいかないから、すかさず声をかける。
ふわああ、と大きなあくびをして「あれ?もう放課後か?」と寝ぼけたことを言っている縄文くん。
一方、平安くんは一冊一冊丁寧に教科書をカバンに入れている。
本当にふたりともマイペースすぎる…。
「縄文くん、起きて。帰る準備して。平安くんは丁寧すぎ…教科書はそんな丁寧に入れなくて大丈夫。簡単に破れたりしないから」
ふたりの手を引っ張って教室を出たが、ふたりも注目の的。
「「「きゃーーー」」」
ああ、このふたり、イケメンだった…。
「白い髪のイケメン、王子様みたい〜」
「赤い髪の子、鍛えてるのかな。がっしりしてて守られたい〜」
廊下にいた女の子たちが騒いでいる。
でも、ギャラリーに足止めされている場合じゃない。
とにかく今は急いで鎌倉くんを追わなきゃ。
「通してください…」
ふたりの前を歩いて、集まってきた人をかき分ける。
ずんずん進む私になんとかついてきてくれるふたり。
素直なところはありがたい。
それにしても鎌倉くんどこいったんだろう。
先輩に呼ばれるって…初日から何をしたのかな…。
私が離れていた時間は、下駄箱で別れてから、「転校生だぞ〜」と先生が紹介した教室に入ってくるまでの間だけ。
公立の学校だからお昼は給食だし、近くの席の子とちゃんと食べてたしな。
あとはずっと教室内で一緒だったわけで…。
「ねえ、ふたりは、心当たりない?」
これといった見当がつかず、縄文くんと平安くんに尋ねる。
「心当たりって?」
「だから、鎌倉くんが3年の先輩に連れて行かれた理由だよ」
「え、先輩に連れて行かれたのですか!」
「そりゃやべえな!どうにかしねえと!」
って気づいてもいなかったんかい。
縄文くんは寝ぼけていたし、平安くんの目線はカバンの内側と机の中の往復でしたもんね。
「どうにかするにしても、どこに連れて行かれたのかもわからないの…。思い当たることはない?」
ふたりは腕組みをして何かを思い出しているようだった。
「うーん、そんなこといきなり言われてもなあ」
「そうですね……。あ! 今朝、職員室に向かう途中に、第二道場の前を通ったんです。そしたら、剣道部の人たちが朝練をしていて。新入部員らしき男の子がーー」
うんうんと首を縦に振って、平安くんに反応する縄文くん。
「そいつが、道場の前で座り込んでてさ、竹刀(しない)をぎゅっと握りしめて、しくしく泣いてたんだよ。それで思わず俺が大丈夫かって声をかけて」
「『(グスッ)大丈夫です』って鼻水をすすりながら答えるものですから、ぼくも心配になって、何かあったのですね?と話しを聞いてみたんです」
身振り手振りでその時の状況を一生懸命伝えてくれるふたり。
「そいつ、周りの1年は日に日に上達しているのに、自分だけ下手なんだって悔しがっててさ。そしたら、鎌倉がいきなり竹刀を振ってみろって言い出して」
「竹刀を振ったその子に、直した方がいいところを鎌倉くんが指導をしてあげたんです。見本を見せながら。そしたらみるみる美しい太刀筋になって」
え、鎌倉くんが竹刀振ったの!?
み、見たかったー!!!
その一年生、羨ましすぎるわー!!!
とか思ってる場合じゃなかった。
こつんと自分の頭を叩いて、ふたりの会話に改めて耳を傾ける。
「ははは、そうそう! ありがとうございます、ありがとうございますって10回くらい言ってたよな」
「ありがとうございますに合わせてお辞儀も倍してましたよね」
「それだ…」
鎌倉くんは剣術に秀でていて、ゲームの中では敵の武士を剣術で瞬殺していた。
《アナヒス》プレイヤーの中でも、鎌倉くんの太刀筋に惚れる人は多い。
それくらい美しくて…強い。
私は剣道に詳しいわけじゃないし、コツとかわからないけど…。
上手い人が指導したらちょっとはましになるのか?
その出来事から推測すると…。
鎌倉くんに指導してもらった1年生が練習に戻る
↓
やや上達していた
↓
同級生や先輩たちが驚く
↓
どうして上達したんだと聞かれる
↓
鎌倉くんに教えてもらったことを話す、の線が濃厚だ。
「ふたりとも、それは有益な情報だよ」
つまり、鎌倉くんは剣道部にいる!
なんだか探偵みたいなことを言っちゃったけど、きっとそうに違いない。
私はまたふたりの手を引っ張って、第二道場へ走って向かったーー。
❤︎❤︎❤︎<ミコト>のひそひそ話❤︎❤︎❤︎
竹刀の起源は江戸時代の中期と言われている!
硬くて重い木刀だと危ないから、より安全な竹刀になったんだって。
ちなみに、《アナヒス》で木刀の訓練をしていた鎌倉くんはかっこよすぎてファンをキュン死にさせそうになったんだよ。


