「起立、礼、着席」
日直の子の掛け声と、ガタガタとまとまりなく鳴り響くイスを引く音。
1時間目の国語の授業が始まった。
時代くんたちがいるのに、いつも通りに授業が始まってしまった…。
「よ〜し、始めるぞ〜46ページ〜」
たむせんが教科書を開く動作をして、クラスメイトたちはみんな一斉に教科書をパラパラとめくり始めた。
私も引き出しから教科書を出して、46ページを開く。
ちらっと斜め後ろの平安くんを見ると、教科書を隠すようにして下を向いている。
どうしたんだろ?
初めての授業が国語だから、絶対にウハウハ大喜びすると思ったのに…。
すると、下を向いていた平安くんがガバッと顔を上げて、勢いよく口を開いた。
「先生! 国語の教科書なのですが、さきほど授業前に熟読していましたら、内容に大変感動いたしまして…文章のほとんどにマーカーを引き、心動いた部分にメモを書き込んでしまいました! なので全く読めません…!」
席替えの後、席でなんかコソコソしてるなと思ったら、国語の教科書熟読してたの!?
「マジか〜すごいな平安くん!」
「俺なんか、いつもたむせんの国語爆睡なのに!」
「「「ははははは」」」
クラスの男子たちが、平安くんの方を向いて笑っている。
私も平安くんの方を向いて、どんな教科書になっているのか覗いてみるとーー。
矢印や丸で文章から気になった言葉を引き出して、そこに平安くんのメモ?らしきものが書き込まれている。
ほとんどの余白が書き込みで埋め尽くされて、カラフルにマーカーされた教科書を見て、空いた口が塞がらない。
こ、これ、さっき全部読んだってこと!?
速読!?
でも、マーカーしたり、コメントを書き込んだりしているし。
さすが、平安時代を生きる男ってところか…。
「お〜、平安は熱心でいいな〜! 前の席に移動して、今日は暁月に見せてもらえ〜」
たむせんが平安くんを空いている席(イヤオイくんの席だけど…)へ誘導した。
え?
私が見せるの?
はあ、しょうがないな。
平安くんがこの時間は隣の席ってことか。
内心わくわくしちゃってる自分がいるけど。
自分の席を隣の席にくっつけて、教科書が見やすいように席と席の間に置いた。
先生も甘いな。
ていうかこれから先、国語の授業で毎回見せなきゃいけないの?
縄文くんの教科書を見せてもらったらいいんじゃない?
隣同士なんだし…。
そう思って振り向くと、縄文くんは机に突っ伏して夢の中にいるようだった。
「むにゃむにゃ、今日はうさぎが獲れた」と寝言まで言っている…。
ゲームの中でも天然パワータイプだったけど、この世界でも健在か。
これじゃ、平安くんに教科書を見せてあげるどころじゃないなと授業を受ける姿勢に戻る。
「美琴さん、ありがとう」
申し訳なさそうな平安くん。
小声で「ふふ、大丈夫だよ。これくらいお安い御用」とピースをしながら笑顔で返した。
ーーバッ。
ん?
勢いよく顔を背けた平安くん。
どうしたんだろう。
頬を赤らめたような気がしたけど、気のせいかな。
「あ、ありがとうございます。本当に…」
平安くんはそのままそっぽを向きながらもじもじしている。
「っていうか、教科書の書き込みすごかったね。見せてよどんなこと書いてるの?」
平安くんの様子は気になるけど、教科書の書き込みの方が気になってしまうー!
ごめん!
平安くん!
私の好奇心を許してくれ。
「え、それは…この俳句ならぼくはこの季語の選び方はしないな、とか、漢文ならぼくならこの漢字ではなく、こっちを使っていて、それでは深みがなかったな、とかでしょうか」
教科書に視線を移して、コメントを指しながら説明する平安くん。
なるほど、教科書をそんなに深く読み込んでいたとは。
「へえ、平安くんの考え方っておもしろい。てかさ、平安貴族の文通ってほんとの話?」
「和歌のやりとりのことでしょうか」
和歌ー!
やっぱその時代を生きていた人の生の声を聞けるなんて貴重すぎるよね!
テンション上がる!
「イエス。恋の仕方、ロマンチックだよね。和歌を送るじゃん。しかも五・七・五・七・七なわけでしょ。伝えたいこと伝わるように…って、その定められた字数に全てをかけるわけじゃん。家に通うのも夜だけで…、昼間だと身分がわかっちゃうし。心が通じないと会えないって言うのも…」
「平安と暁月〜授業に集中しろ〜」
コソコソと話していたのがたむせんにバレて、思わず小さくなった…。
おっとっと。
好きなことだからベラベラと話してしまった。
オタクモード、控えなければ。


