次の日の朝、インターホンが鳴った。
「ピンポーン」という音に反応して手が止まる。
「朝早くに誰だろ?」
着替え中だった制服のチャックを上げて、玄関へ向かった。
「はーい」とドアを開けると、そこに立っていたのは見慣れた顔。
「おはよう、美琴」
カバンを右肩にかけて、いつもと変わらない笑顔の令が立っていた。
「……令、お、おはよう」
「今日、朝練なくなったから迎えにきたよ」
そう言いながら、令の視線は私の後ろ――家の中へ向けられていた。
なにやら勘づいているに違いない…。
縄文くん、平安くん、鎌倉くんがうちに住んでることは、まだ話せていないから説明するしかないよね。
今日の放課後までは猶予があると思っていた…。
こんなに早く話すことになるとは思わなかったな…。
「あ、ありがとう。すぐ準備するから中に入ってて」
そう言った瞬間、後ろで廊下がきしむ音がした。
ま、まさか…。
令は目を見開いている。
「……なんで3人が?」
その声は、いつもより低かった。
後ろを振り返ると、縄文くん、平安くん、鎌倉くんの3人が立っていてーー。
あちゃー…。
「行くぞ」
鎌倉くんの“当たり前”みたいな言い方に、令の眉がわずかに動く。
「美琴さん、学校ですよ〜」と平安くん。
「制服の胸まわりがちょいきついんだよな〜」と縄文くん。
私に向かって言葉を発し、令の横を通って外に出る3人。
あー…。
3人ともマイペースだってことを忘れてた。
終わった…。
令の表情がどんどん曇る。
「こ、これにはわけがあって…令…ごめん…学校行きながら説明させて…?」
私は小さくなりながら、急いで部屋からカバンを取ってきてみんなと家を出た。
++++++++++
令には学校に着くまでに、事の顛末を説明した。
《アナヒス》から縄文くん、平安くん、鎌倉くんの3人が召喚されていること、3人がうちに住むこと、学校や家でのルールを決めたことなどだ。
令は最初は怪訝そうな顔をしていたけど、中盤からはいつも通り私の言葉に寄り添いながら話を聞いてくれた。
そして、最後に「こんなの信じられないよね?」と言った私に「美琴の話を信じるよ」と微笑んでくれた。
令とは、学校の下駄箱で別れた。
「今日は一緒に帰れるよね?」と言われて、受け入れられてないこともあるんだろうなと承諾した。
きっと、登校中の限られた時間では質問できないから、ただただ話を聞いてくれたんだよね…。
令の優しすぎる性格と私の味方でいてくれるという安心感で全てを話してしまったけど、秘密を共有する共犯にしてしまったみたいなものだ。
私ってずるい。
+++++++++++
朝の教室は少しざわついていた。
「ねえ、今日イヤオイくん来るらしいよ」
「誰ー?」
「不登校だった子〜」
席につきながら、なぜか落ち着かない。
「美琴ー! 今朝は早く行ったんだね!」
あ、そうだ。
いきなり令が家に来たから、のんちゃんに今朝は一緒に登校できないっていうの忘れてた。
「ごめん! のんちゃん…!」
「大丈夫大丈夫! 美琴のばあちゃんが先に行ったよ〜って教えてくれたから」
「また休み時間にね」と言い残して、のんちゃんは自分の席に着き、後ろの席の女の子と挨拶を交わしていた。
ーーキーンコーンカーンコーン。
「静かに〜。今日は、みんなお待ちかねのクラスメイトが来てるぞ〜」
たむせんの声と同時に教室のドアが開いた。
教壇に立った男の子は、細身で160cm前半くらいの身長かな?
ストレートのサラサラヘアーー。
どこかで見たような…。
黒板に書かれた二文字。
弥 生
それを見て、心臓がドクンと鳴った。
弥生(やよい)くんじゃん!!
「弥生(やよい)だ……」
弥生くんは教室を見回し、最後に私を見た。
ほんの一瞬、目が合った…?
と思ったら、睨まれてる…?
気のせいか…?
「イヤオイって、みんなに話しててごめんな〜。や・よ・い だ! 一年の先生からの引き継いだときに、その先生が名前のふりがなを間違ってしまっていたらしくてな。今日から弥生もみんなと授業を受けられることになったぞ〜」
先生の目を盗んで机の下でこっそりスマホの画面を確認する。
ーーピロン。
《バグ発生》
《転送設定:20XX年5月15日、ミコトの中学校へ》
《転送人数:1人(弥生)》
《次回追加予定:???》
や、やっぱり。
《アナヒス》の画面はこの表示のまま動かない。
視線をたむせんと弥生くんに戻そうとすると、弥生くんがスタスタと私の隣の席目掛けて歩いてくる。
そうだ。
隣の席じゃん…。
ーーバン!
私の席の横にたった弥生くんが机に両手を置いた。
な、なに?
「おい! お前! 調子乗んなよ!」
ヤンキーですか…。
メンチ切られてる!?
……てかどういうことですか。
調子に乗った覚えありませんけど。
そして、新たな時代くん追加……。
こんなに早いなんて聞いてない!
一体全体どうなっちゃうの!
【つづく】


