時代くん‼︎①


帰り道。
なんとか令を誤魔化せたけど、流石に明日断る理由は持ち合わせていない。
どうしたものか…。

「大丈夫か? なんか元気ないな、美琴!」

縄文くんがハイテンションで私の背中をぽんっとたたく。
授業中寝てるから、放課後も元気が有り余ってるんだな…。

「美琴さん、顔色が悪いですよ? 休みますか?」

「だ、大丈夫。もうすぐ家だし」

平安くんが不安そうに顔を覗く。
鎌倉くんは教室から出てから私の左隣にぴったりくっついているものの、無表情&無言だ。
今日の夜、令への説明の仕方を考えるしかないか…。

++++++++++

家につくと、ばあちゃんが買い物に行くというので店番を変わる。
閑古鳥がなく客の来ない店だけど、一応店番は必要だ。
時代くんたちには、宿題をするなり、部屋で休んでいるなり、自由にしていてと話した。
縄文くん土器ぶっ壊す事件もあったし、今後は家の中なら何も起こらないだろう…。

久しぶりの店番で、お客さんの試し演奏用の琴をやさしく撫でる。
畳に座り、目の前の琴を見つめる。
久しぶりに弾くかーー。
右手の親指、人差し指、中指に爪をつけて、糸にそっと触れれる。

ーーぽろん。

手前から4番目の糸を弾くと、心地よい音が室内に響き渡った。

ーーぽろん、ぽろん、ぽろん。

曲を弾き始めると、自然と指が動く。
この音色を聴くと落ち着くな。
平安貴族の間で親しまれたこの楽器が、今も生きている、そんな感じがする。
そういえば、ばあちゃんも父も私が琴を演奏するといつも褒めてくれたな。

『美琴の音はやさしい音がするよな! ばあちゃん』

『そうだねえ、あったかい音がするね』

『ばあちゃん、音に温度なんてないよ』

『あら、美琴の琴には温度が宿っているよ』

『そうだぞ! 美琴は世界一かわいい!』

『父…話ズレちゃってるから…』

演奏しながら、昔の会話を思い出す。
琴の音の温もりを今では少しわかる気がした。
琴の弦は13本。
それぞれどの音も私は好きだ。

++++++++++

一曲弾き終えて、目を閉じた。
さっきまでモヤモヤしていた気持ちが一気に晴れた気がする。
令への時代くんたちに関する伝え方もなんとなく整理できそうな気がした。

ーーパチパチパチパチ。

店の奥から拍手が聞こえて、音の方向へ目を向ける。

「げげげ…3人とも…聞いてたの」

縄文くん、平安くん、鎌倉くんが顔を覗かせていた。
自分の顔が熱くなるのがわかる。
ばあちゃんと父以外には聴かせたことがないのに。

「美琴さん、なんと心の奥底までに響く音色でしょうか。これは夢か現(うつつ)か」

なんだその平安貴族みたいな感想は。
って、平安くんは平安貴族か。

「すげーな! なんか俺感動した! な! 鎌倉!」

「ああ」

周りに駆け寄ってくる3人。
まだ顔がほてっていてなんとなく気まずい…。

「もう一曲弾いてくださいよ!」

「俺も聞きたい!! な! 鎌倉」

「ああ」

なんか、縄文くんと鎌倉くんのやりとり…デジャブ…。
てか、人の前で披露するなんて、なんだか恥ずかしいし、緊張して弾けるわけない!

「無理無理無理!」

「なんでですか! こんな特技あるのに披露しないなんて勿体無いです!」

「特技っていうか、楽器屋の孫だし、日常っていうか、趣味っていうか」

「…俺は好きだ」

「「「……え!?」」」

鎌倉くんの突然の告白に縄文くんと平安くんと私の声が揃う。
どういう意味…?

「鎌倉、美琴のこと好きだったのか!」

縄文くんがガッと鎌倉くんの肩を持つ。

「突然、告白するなんて! 完全に抜け駆けです!」

平安くんは、手に持っていた扇でバシバシ鎌倉くんを叩いている。
どこから出てきたその扇…。

「いや、違う。違くはないが、その、違くて…演奏が好きだって話だ」

ああ、演奏が好きってことね。
ほんと口下手なんだから。
びっくりしたじゃん。
私がいることを忘れているかのように、引き続き、鎌倉くんを問いただしている縄文くんと平安くん。

「ふたりとも落ち着いて… 演奏はまた後日。もう店を閉める時間だから、手伝って」

3人に声をかけて、指示を出す。
それぞれやるべき事を始めるのを見届けて、店のシャッターを閉めに外に出た。
なんとか誤魔化せたか。
でも次に演奏を聴かれたら、もう逃れられなそうだ…。
好きな時に、好きなように弾くのがよかったのに。

「これどーすんだー!」

「美琴さん、この物入れの袋が破れそうです!」

店の中から縄文くんと平安くんの声が聞こえて「今行くー!」と応答した。
ばあちゃんも帰ってくる頃だし、店を閉めたら、夕飯の準備もしなきゃだ。