時代くん‼︎①

次の日。
全員で支度して、学校に向かう。
3人の少し後を歩いて、それぞれの背中を見つめる。
今日も無事に学校が終わりますように。
そして、皆の者、ルールを守れよルールを。

ーーキーンコーンカーンコーン。

何事もなく、あっという間に放課後になった。
ふぅ、なんとか今日も耐えた…。

「きゃー! 令先輩!」

「爽やかすぎる〜かっこよすぎ! メロい!」

「ねえ! 話しかけようよ」

女子たちのキャピキャピ声が廊下から聞こえてくる。
令先輩って聞こえたような…。

ーーガラッ。

「美琴いる?」

声の方に視線を向けると、想像通り、令が教室の扉に手をかけて立っていた。
また、令人気が増したみたいだ。
クラスメイトたちも顔を赤らめてきゃっきゃ言っている。
そんな女子たちをよそに席を立って扉に向かう。

「どうしたの? 今日部活の日じゃない?」

「これ。鎌倉に渡そうと思って」

令は「仮入部届」と書かれた紙を手に持っていた。
鎌倉くんに渡すのになんで私を呼んだんだろう。

「美琴ちゃん、羨ましい」

「令先輩と幼馴染なんでしょ?」

「私も令先輩の幼馴染枠、獲得したかった〜」

クラスの女子たちが私の後ろで目をハートにしているのが目に浮かぶ。
あ!
いけないいけない。
今は鎌倉くんの「仮入部届」の話をしてたんだ。

「鎌倉くんなら一番前の席に…」

鎌倉くんの席を指さそうと言いかけると、目の前が男の人の背中で遮られる。
大きな背中だな…。

「……ありがとうございます」

声を聞いてハッとする。
鎌倉くん…いつの間に私の前に…。

「鎌倉、昨日は剣道部まで来てくれてありがとな。保護者には話せたか? 剣道部のこと、考えてるところだとは思うけど、仮入部にも届出が必要だから、取り急ぎ渡しとこうと思ってさ」

「…仮入部をしてみてから、入部するかどうか、決めたらいいと言われました」

「そうか」

保護者って私のこと?
そういう話をふたりでしたのだろうか。
知らなかったな。
鎌倉くんの背中からひょこっと顔を出して令の顔を見る。
なんか、ちょっと視線が冷たい気が…。
いつも穏やかな令が無表情なのも気になる。
何かあったのかな。

「令、どうかした?」

私の声に反応して笑顔に戻った令。

「いや、なんでもない」

「仮入部届は記入して、明日持っていきます」

「おう、考えてくれてありがとな! 長谷川、あ、部長も喜ぶよ」

「よかったね、鎌倉くん!」

鎌倉くんの後ろから移動して隣に立つ。
鎌倉くんの顔を見ると、ワクワクしているような瞳だった。
私もなんだかワクワクするし、嬉しいな。
令はまだ話すことがあるようで、その場から動かない。
最初、私のことを呼んでいたし、私にも何か用事かな。

「令、私にも用事があったんじゃないの?」

令が少し屈んで私と目線を合わせる。

「一緒に帰ろうと思って。ふたりで」

「え? ふたり?」

今日は部活の日だったはず…。
急だな。
それに、困った。
令には3人がうちに住んでいることはまだ話せていない。
今日も時代くんたちと一緒に家に帰らなきゃいけないのに。
いっそのこともう正直に話す…?
でも、考えがまだまとまってないし…。

「……あの、こいつは今日は俺と帰る約束してるんで、無理です」

か、鎌倉くん?
もしかしてフォローしてくれたのかな?
かたじけない…。

「そ、そうなの! ごめん、今日は先約が…!」

「……鎌倉とふたり?」

令の普段とは違う鋭い視線が痛い…。

「え? なんでそんなこと聞くの? というか部活は?」

話を逸らそうとすると、令が教室の中まで入ってきて、ぐっと距離を詰めてくる。
どうしたんだろう?
なんだか焦ってるような…。

「部活より美琴が大事だから。俺」

えっと…。
なんだこの状況…。

「……今まで部活休んだことないじゃん。ダメだよ休んじゃ」

黙って下を向く令。
今までこんなことなかったのに。
由々しき事態…。

「……ふたりじゃないです」

横から鎌倉くんの声がして、令がぱっと顔を上げる。

「縄文も弥生も一緒に帰ります。4人で帰る予定なんで」

「そうそう! 転校してきたばかりだから、放課後、街を案内することになってるんだよ!」

鎌倉くんに被せるように、続ける。
これで納得してくれ…。

「……わかった。今日は部活に行くけど、明日は休みだからふたりで帰ろう。約束」

そう言い残して令は教室を出て行った。
ちょちょっと…明日も時代くんたちという先約が…。