「私先に寝るね、平安くんと縄文くんも明日学校なんだから早く寝るんだよ。てか縄文くん早くお風呂入っちゃって!」
ばあちゃんとペラペラ喋っているふたりに声をかける。
鎌倉くんはお風呂から出た後、平安くんに声をかけてすぐに部屋に行ってしまったようだった。
もう寝ちゃったのかな?
明日の準備をしなきゃと私も部屋を出たーー。
++++++++++
部屋に向かう途中、今日の出来事が次々と思い浮かぶ。
今日は目まぐるしい一日だったな。
早めに寝よう。
中間の勉強は明日からにして…。
「あれ?」
自分の部屋の前までくると、少しだけドアが開いていて廊下に光が漏れている。
ちゃんと閉めなかったっけ?
ーーギギギィ。
部屋に入ると目に映ったのはーー。
「か、鎌倉くん」
鎌倉くんがベッドの上で落ち着かない様子で視線をそらしていた。
「な、なんでそんなとこ座ってるの…。わ、私のベッドだよ」
急いでドアを閉めて、他の人に気づかれないように話しかける。
「……ほかに座るとこ、ないだろ。」
つっけんどんな声。
いやいやいやいやいやいや!
そういう話をしてるんじゃないんだよ。
私の部屋に入るの禁止って言ったのに!
早速ルール破ってんじゃねえか!!!
ベッドの上から動こうとしない鎌倉くんの手には、ガチャガチャで手に入れた弥生土器のキーホルダー。
そんなの持ってても「鎌倉くんかわいい!」とかならないからね!!
「…えっと、何を…。あと、私の部屋には勝手に入らないでってルール決めたよね…?!」
小さめの声で少しずつ鎌倉くんに近寄りながら話しかける。
「……今はここがいい」
表情を変えずむすっとした鎌倉くん。
なにそれ…。
よくわかんないけど、出ていってくれる雰囲気なし。
私のオタク部屋にも何のコメントもなしだし…。
結構レアなもの多いんだよ…?
あの黒曜石は岩宿遺跡の体験で削ったものだし、その手に持った弥生土器のガチャガチャは限定の土器ガチャで当てたやつで…。
って!
そんなこと考えてる場合じゃなかった。
鎌倉くんのだんまりタイムが始まっちゃってるし、とりあえず話をするしかないか…。
隣に座るとズズズっとベッドの端に移動する鎌倉くん。
???
私が隣に座るのは嫌なのか!?
私のベッドだぞ!!
座り直した鎌倉くんの体重でベッドの端がグッと凹み、その重みが私のもとに響く。
男の子が部屋にいるってこんな感じか。
令には感じない緊張感…!?
いや、男の子っていうか、時代くんだから…?
鎌倉くんは無言のまま、ベッドの端でうつむいている。
30秒の沈黙ーー。
もう、なんなんだ…。
「鎌倉くん、どうしたの。ルールを破ったことは一旦目を瞑るから……話してくれなきゃわかんないよ」
なるべく優しい声で、自分の足先を見つめながら話しかける。
「……お前との時間、俺だけなかった」
鎌倉くんがボソッと元気のない声を出す。
???
what?
えーっとなんの話でしょうか。
ますます意味がわからない。
「……お前の匂い、するし。この部屋なんか落ち着く…」
え!
思わず鎌倉くんの方を向く。
私の匂いというか、お香の匂いです。
平安時代から伝わる白檀(びゃくだん)ですわい。
私はお香もたくのよ⭐︎
香木いいよね。
落ち着くよね。
うんうん。
じゃなーい!!
「俺はお前が…!」
そう言いながら、膝と膝がぶつかるくらい距離を詰めてきた鎌倉くん。
今度はなんなの。
ーードキドキドキドキ。
私は居ても立っても居られず、クッションを手に取って顔を隠す。
むりいいい。
なんか、白檀どころじゃなくて、近寄って来た鎌倉くんからいい匂いがした気がした。
オタク魂が騒ぎ立つ!
鎌倉時代の匂いかな!?
地域の交流センターで受けたお香の授業でも嗅いだことがない!
嗅ぐを通り越して、吸いたい吸いたい!
鎌倉くんを吸ってみたいー!!
鎌倉武士も香を焚いたのかな?
うひょー!
どんな匂いがするんだろ。
でも吸ったら絶対に気絶するー!
オタク炸裂⭐︎⭐︎⭐︎
そんな私の興奮をよそに、鎌倉くんはぽつりと不満をこぼした。
「……縄文と平安とは席も近くなって、放課後だって3人で行動してて、俺だけひとりだった」
クッション越しにオタクモードになっている場合じゃなかった。
一回落ち着こう。
ふたりとは仲良くなってるのに自分は…って不安だったってことなのかな。
確かに会話量が少ないし、いきなりこの世界に来て疎外感を感じたのかも…。
なんだかんだ縄文くんと平安くんに付きっきりだったし、悪いことしちゃったな。
そんな気持ちのところ、吸いたいとか言ってごめんなさい。
私はクッションをゆっくり下ろした。
「気づけなくてごめん…そういえば剣道部のことも帰り道に相談してくれていたのに…」
「それは別にいい」
手に持った弥生土器をいじりながらも真剣な口調でその後も言葉を紡ぐ鎌倉くん。
「俺は…口下手だし、この世界ではお前とどうやって接していいかわからない」
鎌倉くんは視線を落とした。
ゲームの世界ではうまくバディーを組めてたけど、この世界では私とうまく接することができていないと、悩んでいたのか…。
そんなふうに思ってたなんて。
胸がチクリと痛んだ。
「……ま、またこうやって時間を作ろうか?」
「え…」
「毎日は難しいけど、一週間に一回とか。縄文くんと平安くんはお喋りだし、席も近いからどうしても話す時間が鎌倉くんよりも多くなると思うんだよね。だからふたりには内緒で鎌倉くんだけは、私の部屋で話す時間を作るっていうのはどうかな…?」
鎌倉くんの方に体を向けて顔を見た。
そうそう、この部屋も見られちゃったわけだし…。
別にもういいよね…。
ガラクタって思われたかな…と、ちょっぴり悲しい気持ちになる。
のんちゃんだけじゃなくて、令も「美琴の部屋はカラスの巣みたいだよね」って褒めてるのか、貶してるのかよくわかんないこと言ってたし。
この良さをわかる人がいなくてそれから誰も部屋に入れてなかったけど…。
部屋に関してはなんの反応もない。
反応がなさすぎるのも悲しいものだな…。
私がガッカリしてうつむいたとき、鎌倉くんの肩が、びくっと動いたのが視界に入った。
「…別に無理に…時間とか作らなくても。それに迷惑…だろ?」
私を気遣うように発した小さな声。
「大丈夫だよ」
「ほんとか…?」
部屋のことはまあいいとして、こっちの世界に来てホームシック?みたいな感じもあるんだろうし。
私が話を聞くことで不安が解消されるならそうすることにしよう。
「もちろんだよ。私もふたりで話したいし!」
鎌倉時代のこととか、聞き出せるかもしれないしね⭐︎
「……お、おう。それと、お前の部屋、勝手に入るなって言われてたのに、悪い。いろんなものがあってどれも貴重なものだと思ったら時間を忘れて鑑賞してて…」
鎌倉くんは話しながら動揺している。
私は思わず、くすっと笑った。
「そういう反応の人ははじめてだよ! ははは! こんなに嬉しいんだね。ありがと」
「……御礼を言われることか…?」
驚いた表情の鎌倉くんと目が合った。
ふふっと自然と微笑んでコクリと頷く。
私の部屋のものを"貴重"と言ってくれた人ははじめてで、心からふわっと軽くなる。
嬉しい…。
こんなあたたかい気持ちになれるんだ。
「じゃあ、そういうことにしよう! それはそうと、鎌倉くん、ほんとは剣道部に興味あるんじゃない?」
「………」
また黙りこくって。
自分の気持ちをなかなか言えないんだから…。
「もし違うなって思ったら辞めればいいんだから、仮入部してみるのもありなんじゃないかな」
鎌倉くんは縄文くんや平安くんのようにおしゃべりじゃないし、真面目だ。
剣道部に入ることで何か問題を起こすとも思えない。
それに自分の気持ちを言えない性格も部活を通して変えられるかもしれないし…。
あはは、これって親心みたいな?
「……やってみたい」
「気持ちが聞けてよかった。剣道部には令がいるから安心してね」
「……令」
「あ、令は今日鎌倉くんを校門まで連れて来てくれた人だよ。剣道部の副部長で剣道もすっごく強いの」
「知ってる…幼馴染だろ」
「そう幼馴染! 話したんだね。令は小さいときからずっと一緒で。『美琴大丈夫?』が口癖なの、過保護でさ。ああ、そんなことはどうでもよくて、剣道に関してはほんと強くてね! 小学校6年の時に強豪校からスカウトされてたんだけど断っちゃって…」
「(こそっ)好きなのか…」
ん?
鎌倉くんの声が小さすぎて聞き取れなかったので聞き返す。
「え? なに?」
「……なんでもない」
ーー少しの間沈黙が流れる。
令のこと話しすぎちゃったかな。
でも、鎌倉くんとの時間は、会話がなくても居心地がいいなって思い始めて来たよ。
鎌倉くんの横顔は、昨日、バディーとして古文書を解読した時と同じ真剣さがあった。
剣道部、楽しみなのかな…。
なんだかんだで忘れてたけど、《アナヒス》中もこの横顔が心強かったんだよなと思い出す。
私が《アナヒス》に思いを馳せていると、いきなりバッと立ち上がった鎌倉くん。
いきなりどうした…?
すると部屋のドアに向かってスタスタ歩いていった。
部屋に戻るのかな。
ドアの前で止まると「おやすみ、ミコト」とドアに向かって言う鎌倉くん。
「お、おやすみ!」
ーーバタン。
急に部屋を出ていった鎌倉くん。
慌てた「おやすみ」になっちゃったじゃん。
どうしたんだろ?
いきなり睡魔に襲われて部屋に戻りたくなったとか…?
まあいっか。
ーーボスっ。
ベッドの中に潜り込む。
なんだかすごく眠くなってきた。
さすがの私も疲れちゃったよ。
縄文くん、平安くん、鎌倉くんは部屋でちゃんと寝たかな…。
明日はゲーム内で着てる衣装をよく観察させてもらわなくっちゃ…。
そう思いながら目を閉じたーー。
❤︎❤︎❤︎<ミコト>のひそひそ話❤︎❤︎❤︎
縄文土器と弥生土器の違いって知ってる?
ふふふ。
教えてしんぜよう!
縄文土器は縄目の模様がついていて分厚い! 逆に弥生土器は薄くてつるっとしたシンプルなデザインだよ。


