時代くん‼︎①


ばあちゃんが淹れてくれたお茶を運びながら、思考を巡らせる。
大事なことを忘れていたけど、3人って我が家に住むってことだよね…?
帰宅中に《アナヒス》の画面を確認したら、「転送設定」の文字だけが表示されていて、うんともすんともしなかった。
ログインし直しても一向に進まないし。

ばあちゃんは何も気にしてないみたいだし、時代くんたちには暁月家に居候してもらうしかないよね…。
てかてかてか!
歴史アイテムオタク的には最&高のシチュエーションですし⭐︎
うっひょー!

ただ、ネックなのは、娘大好きマンの父だ。
話したら「男と住むなんて許さない!」と駄々をこねそうだな。
まあ、夏休みまでは帰ってこないだろうし、あとで説明しよう⭐︎

いきなり3人も増えるわけだし、父の部屋と父と母の寝室だった部屋が空いてるからそこを使ってもらおうかな。
ばあちゃんと要相談だ。

父は暁月楽器店の一人息子だけど、店はばあちゃんが切り盛りしてるから、一般企業で働いていて数年前から会社の転勤で海外赴任中だ。
毎日閑古鳥が鳴いている楽器屋を継ぐ気があるのか…よくわからない。

母は、私が生まれたと同時にこの世を去ったという。
出産時の出血が多くて命を落としたのだそうだ。
小さな産院で私を産んだ母は、出血が止まらず大きな病院に救急車で運ばれた。
だけど、受け入れを数カ所から断られてしまい、最後に受け入れてくれた病院に着いたときには手遅れだったと小学生になったときに父から説明された。

ときどき、母が生きていたらどうだっただろうと思うことがある。
でも、会ったことがない人に悲しみの気持ちは湧いてこなかった。
私は冷たい人間なのかもしれないな。

物心ついた頃には、ばあちゃんと父と3人暮らし。
店の楽器たちがおしゃべり相手だった。
私のことを可哀想と言う人もいるけど…。
お店をやっているから近所の人とも仲良しだし、親友ののんちゃんは毎朝一緒に登校してくれる。
それに、幼馴染の令は私がひとりぼっちにならないように気にかけてくれるし…。
どちらかといえば恵まれている方だと思う。

縄文くん、平安くん、鎌倉くんと順番にお茶を渡して、元の席につく。

「3人には、父の部屋と使ってない寝室が空いているから、そこを使ってもらおうと思うんだけど…」

お茶をごくっと飲んで3人に説明する。
この後、部屋を案内するか…。
するといきなり「えー」と明らかに嫌な顔をした縄文くん。

「美琴と同じ部屋じゃないのかよ〜」

やだやだと赤ちゃんのように駄々をこねているのは縄文くんだ。
何言ってんだ…。

「ぼくも美琴さんと寝たい!」

平安くんはえへへとかわいい笑顔でアピールしている。
はああああ!?
こっちは年頃の女だぞ!
自分で言わせてもらいますけど!
そんな顔しても了承できません!

鎌倉くんは…?と視線を向けると私のことを睨んでいる。
いや、なんで…?
睨む要素ありました?

「私の部屋はひとり用だから。3人も入れません!」

体の前で両手でバツをつくる。

「ちぇ〜」と言いながら、縄文くんがあぐらから横になってごろごろし始める。
飽きるな…!
平安くんは「夜這いしましょうね!」と鎌倉くんに耳打ちしていて「やめとけ」と言われている。
なんだこのいろんな意味でお盛んな男子たちは。

危険すぎる。
家でのルールは厳しめにいこう。
さらさらっとペンで家でのルールも書き足す。

私の部屋には絶対に入られたくない…。
それと、勝手に料理とかされたら困るから「何かしよう!」ってときは、相談してもらおうかなー。
あ! 
学校以外の外出は私と一緒じゃなきゃダメってことにしよう。
一般の人にまでは迷惑かけられない…。
あとは…。
さっきの発言が気になるから、一緒に寝ないってこととーー。

★家でのルール
1、美琴の部屋には勝手に入らない
2、家の中で何かするときは美琴もしくはばあちゃんに相談する(料理など)
3、外出は基本NG(外出する場合は美琴と一緒)
4、一緒に寝ない(布団は当たり前に別)

4まで書いたところで立ち上がった縄文くんが、私の背後に移動する。
ルールを書いた紙を後ろから覗き込んできた。

ーーグググっ。

背中にぴったりくっついている。
ち、近い。
この男は、人との距離感もバグっているのか。

「うーん。学校でのルールはわかったけどさ。家でのルールに、不服ありだな〜」

私の右耳に縄文くんの顔が触れてしまいそうな距離。

「ちょっと!」

離れてもらうために、縄文くんの肩を両手で押して引き離す。

「同意です〜。一緒に寝たい日もありますよね、怖いことがあった日とか」

すると反対側から平安くんが私の左耳を攻めてくる。
だからふたりとも近い。

「ダメです。このルールは絶対に守ってもらうから。これが一緒に住むための条件! これで何か問題が発生すれば、都度追加します!」

強めに縄文くんと平安くんに言い渡す。

「お前ら、近すぎ」

それまで静観していた鎌倉くんが、ふたりを私から引き剥がした。
あ、ありがとう。
それに対して「ぶーぶー」と反発する縄文くんと平安くん。

まあ、うまくおさまったのかな…。
納得してくれなかったとしても、守らなくてはならないルールがある!と意識を持ってくれただけで及第点だ。
ここ数日はこのルールに則って生活してもらって…。
何かあればまた考えるとしよう…。

「3人ともわかった?」

私の問いかけに縄文くんと平安くんが「「ふわあああい」」と情けない返事をしたかと思うと、鎌倉くんが口を開いた。

「お前、部屋に何か見られちゃいけないものでもあるのか?」

真剣な眼差しで私を見る鎌倉くん。
そ、そうきたかーー。
何を隠そう私の部屋は、歴史に関するもので埋め尽くされている…。
アンモナイトから埴輪、絵巻物、屏風、日本刀まで…。
遊びにきたのんちゃんが「美琴の部屋は足の踏み場もないガラクタの山だね」と言っていた。
足の踏み場はあるし、ガラクタなんてひとつもないけど…。
そんな部屋を知られた日には…。

「見られちゃいけないものなんて、な、ないよっ」

動揺して声が裏返る。
目を逸らしたから怪しまれたかも…。

「じょ、女子の部屋に図々しく入っていいものではないんです…」

すかさず言い訳を加えてみる。
すると、「ああ…そう…」と言った鎌倉くんはそれ以上は何も言ってこなかった。
ご、ごまかせたのだろうか。