ーーピンコーン、ピンコーン。
「「「「ただいまー」」」」
4人揃って帰宅すると、店番をしていたばあちゃんが「おかえり〜お茶淹れるよ」と出迎えてくれた。
家を出るときは、裏口の自宅につながる玄関から出るけど、帰宅するときは、店の入り口から入っている。
小学生のときから変わらないルーティンのようなものだ。
それに、帰宅して一番にばあちゃんの声を聞くとなんだか安心する。
店から自宅につながる廊下を通って、縄文くん、平安くん、鎌倉くんと朝ごはんを食べた和室に移動する。
4人で顔を見合わせて座ると、なんだかひと段落した気分。
今日を無事に終えることができて本当によかった。
さてさて…いつまで続くかわからないこの状況を整理しよう…。
そして、学校と家でのルールを作らなきゃだ。
「美琴は何をそんなに気にしてんだ」
縄文くんが口火を切る。
「そうですよ、暮らしたいと言った美琴さんの思い通りになったじゃないですか」
縄文くんと平安くんが顔を見合わせて「ね〜」と言っている。
うう…。
それはそうなんだけどさ…。
なんとかして、口裏を合わせてもらわなきゃ…。
私の平穏な中学生活が悲惨なことに。
「こ、この家で暮らすにも、学校で一緒に生活するにも、ルールを決めなきゃでしょ」
誤魔化そうとすると、縄文くんが間髪入れずに言い返してくる。
「学校では今日みたいにしてりゃいいだろ! 楽勝楽勝!」
ガバガバ机を叩きながら笑う縄文くん。
楽勝って…ずっと寝てたじゃん…。
「縄文くんはずっと寝てましたけどね」
私の心の声を復唱するように、平安くんが呆れ顔でツッコむ。
「平安だって国語の授業以外、ポカンとしてただろ」
縄文くんに突っ込まれて、あわあわする平安くん。
「私はポカンとしていたのではなく、思考を巡らせていたのであって…!」
犬猿の仲でしたっけ、あなたたち…。
ふたりが顔を近づけて睨み合うのを、鎌倉くんは静観している。
鎌倉くんもなんとか言ってくれや。
帰り道からだんまりなんだから。
「ふたりとも…いい加減にして。まずは3人にこの世界で無事にスクールライフを送ってもらえるように、学校でのルールを決めよう」
私の無事なスクールライフのためでもあるけどね…。
私たちは親戚ということになっているし、その設定は生かすか。
てか誰が親戚って言ったの!?
も、もういいや。
いったんそれは置いておいて。
冷静に考えよう。
関係を深く聞かれたときには「詳しいことは複雑な事情で話せない」とでも答えてもらうことにして…。
それと、申し訳ないけど、クラスのみんなとの会話は極力避けてもらうしかないよね…。
イノシシ狩りとか夕凪とか、みんなスルーしていたけど、時代感覚が抜けていない状況でのクラスメイトとの接触はリスクがありすぎる。
「クラスのやつとなるべく関わらないってルールにすれば?」
口調は強いけど、真剣な顔で私をフォローしてくれる鎌倉くん。
ナイスパス。
やっぱ、冷静な武士は判断力が神ってるね…!
武士たるもの主君への忠義と献身だよね〜。
私は主君ではないけれども…。
でもでも3人は居候?なわけだし。
私がこの家の人という意味では、主君か。
御恩と奉公ですよ!
御三方!
そう思ったのも束の間。
「ええええ!俺、休み時間にみんながやってた、石蹴りみたいなやつやってみたかったんだけど!」
縄文くんが駄々をこねる。
サッカーね。
石蹴りって…。
「あれは、蹴鞠(けまり)ですよ。縄文くんの時代にはなかったのですね」
いやいやいや。
違うよ?
どう見たって蹴鞠みたいに優雅に蹴ってなかったでしょ!
「いや、あれはサッカーだから!」
思わずツッコんで、また脱線してしまった…。
私は「こほん」と注意を引くようにして話し続ける。
「サッカーはしてもいいけど、話すのはなるべく少なくしよう」
ひとりひとりに目を見ながら私は続けて言葉を繋げた。
「サッカーの話を例にすると、平安くんの時代にはサッカーと似た<蹴鞠(けまり)>があって、縄文くんの時代にはないわけで…その一言で現代の人には色々怪しまれちゃうんだよ」
3人とも私の目をじっと見て聞いている。
どうか伝わってくれ。
切実…!
「うーん、難しいことはわからんけど、わかった!」
うむむと考える人のポーズをしていた縄文くんが、納得したのか元気よく手をはーい!と挙げながら言う。
返事はいいんだけどね、縄文くん…。
そして難しいことは言ってないからな…実行してくれよ…。
「ぼくは四六時中美琴さんと離れませんので心配ご無用です」
目をキラキラ輝かせながら一筋に私を見る平安くん。
し、四六時中!?
平安くんは真面目なのか、なんなのか…。
流石にもう少し離れてもらっていいんだけど…まあいいか、それくらいの気持ちでいるってことだよね。
ーーゴソゴソゴソゴソ。
私はカバンからノートを出して「ビリッ」っと一枚やぶった。
そこにルールを書き綴った。
★学校でのルール
1、正体を秘密にする!
2、必要以上にクラスメイトと会話しない
3、授業中は静かに(自分の生きていた時代と違うことがあっても訂正しない)
ーーーバン!
「これでいこう」
私が机とルールを書いた紙を叩くと、3人が身を乗り出して紙を確認する。
「ほーい」と縄文くん。
「承知いたしました」と平安くん。
「ああ」と鎌倉くん。
みなさーん、ちゃんと守ってくださいね!!
3人をギロっと睨んで念押しする。
学校はこれでいいとして、次は家か…。
考えることが多すぎて、なんだか頭が痛くなってきた…。
「お茶入れたよ〜」
全員が一斉にばあちゃんの声の方を向く。
帰ってくるまで散々だったし、一息つくことにしよう…。
重い腰を上げて、ばあちゃんが淹れてくれたお茶を取りに立ち上がったーー。
❤︎❤︎❤︎<ミコト>のひそひそ話❤︎❤︎❤︎
蹴鞠(けまり)は平安時代の貴族の遊び。勝負するわけじゃなくて、優雅に鞠を蹴って楽しんだんだって!
もちろん私の部屋にもあるよ、蹴鞠。
ふふふ。
あ、そうそう。
「御恩と奉公」は大事なキーワード。
御恩は将軍が御家人(主従関係を結んだ武士)を保護したり、土地を上げたりすること。奉公はその御恩を受けた御家人が将軍のために一族で戦うことだよ。


