『あのさ、令…。一生のお願い聞いてくれない?』
幼馴染の美琴が急にそんなことを言い出すから、内心かなり焦っていた俺。
『ははは、一生のお願い、ここで使っちゃうの? いいよ、一生じゃなくても美琴のお願いならなんでも聞くよ』
なんて、余裕のある男ぶって平気な顔して応えたけど…。
今まで男となんて関わらなかった美琴が剣道部に勧誘中の鎌倉とほか2名の男子と関わりがあるなんて。
気になって仕方がない。
美琴は小学生のときに変なやつに声をかけられたことがある。
それから男とは極力接しないようにしていることを俺は知っていた。
美琴の隣にいられるのは俺だけだと思っていたのに…。
心がズキっと痛む。
付き合ってるのか聞いたけど、すごい勢いで否定してたし、逆に怪しいっていうか、なんていうか…。
こんなの男らしくないけど、もう一度きちんと問いただしたい。
道場裏で美琴たちと別れて、道場の入口に向かいながらそんなことを考えていた。
++++++++++
「長谷川ー!」
名前を呼びながら道場に入り、剣道部部長の長谷川の元に駆け寄る。
「おう! 和も何とか言ってくれよ、鎌倉が首を縦に振ってくれなくってさ」
部長の長谷川は根気だけは誰にも負けない。
俺はそういうところを尊敬しているし、長谷川を部長に推薦したのも俺だ。
4月に始まった新体制も板についてきて、長谷川を慕っている後輩も多い。
鎌倉への勧誘は続いていて、部員たちもなんとか入ってもらえないかと頼み込んでいる。
道場に連れてきて、長谷川と一戦交えた鎌倉の強さは凄まじかった。
長谷川だって県の大会でもベスト8には入るのに…。
鎌倉が入れば全国だって夢じゃない。
俺も団体戦で勝つには、鎌倉の力が必要だと思うけど…。
「鎌倉も考える時間が必要だと思うよ。ねえ? 鎌倉」
部員たちの圧がエスカレートしそうなのを止める。
こんだけ粘っても首を縦に振らないんだから、何か理由があるんだろう…。
「…相談しなきゃいけない人がいるので」
さっきまで頑なに口を開かなかった鎌倉がボソッと言う。
相談しなきゃいけない人。
もしかして美琴か?
「相談しなきゃいけない人って美琴?」
そう思ったら、反射的に焦って質問してしまった。
ここで美琴って答えられたら、俺が傷つくだけなのに…。
「…保護者です」
鎌倉のその一言に心底ホッとする。
美琴なわけないか。
「そうだよな。ごめん。変なこと言って。長谷川そういうことだからさ、今日は帰ってもらって、来週までに返事をしてもらうってのはどう? 仮入部してもらうっていう手もあるし」
長谷川の方を向き直して説得する。
粘り強いところが長谷川のいいところだけど、今日は美琴との約束もあるし諦めてもらわないとな…。
「わかった。鎌倉も親御さんに相談しなきゃ決められないよな! 悪かったな」
長谷川はごめんごめんと苦笑いをしながら頭をかいた。
潔いところも長谷川の魅力だ。
「いえ…」
無表情だが、一応申し訳なさそうにしている鎌倉。
なんとかうまくおさまったようだな…。
「じゃ、俺、ここまで引き止めちゃったし、鎌倉のこと校門まで送ってくるわ! 部活始めてていいから!」
そう言いながら長谷川の肩をトントンとたたく。
「鎌倉、行こうか」と鎌倉を連れて道場を出た。
++++++++++
校門が遠目に見えるところまで来ると、美琴の姿が見えた。
ほか2名も金魚のフンのようにくっついているけど。
なんなんだあいつら。
「鎌倉、保護者とよく相談して決めてくれればいいからな」
道場を出てから、ずっと無言の鎌倉に校門に向かいながらフォローする。
いきなり呼び出して、あんな質問攻めにされながら勧誘されれば引くよな、普通。
すると、いきなり立ち止まった鎌倉。
俺もそれに合わせてその場で止まる。
「美琴って呼んでるんですか」
突然の質問にドキッとする。
なんでそんな質問するのだろうか。
「え? 美琴? あ、ああ、幼馴染なんだ。隣の家で小さい頃からずっと一緒でさ」
咄嗟に答えたので、少し早口になる。
「…付き合ってるんですか」
「俺と美琴が?」
「…はい」
え?
どうしてそんな風に思うんだ?
さっき美琴の名前を出したから気になってるのか…?
よくわかんないやつだな。
「付き合ってないよ。なんて言うか、美琴は俺のことお兄ちゃんみたいに思ってるんだ」
このまま会話が続くのかと思いきや「わかりました」といってまた歩き始めた鎌倉。
なんなんだ?
もしかして、鎌倉も美琴のこと…。
少し前を歩く鎌倉を追いかけながらボソッと呟く。
「付き合えたらいいなって思ってるよ」
鎌倉にまで届いていただろうか。
何の反応もなかった。
少し早足で追いつき、隣に並んで美琴たちのところに向かう。
美琴まではもう少しだ。
++++++++++
校門前まで鎌倉を送り届けたけど、少しだけ美琴とふたりの時間が欲しいと思ってしまった。
余裕ないな俺…。
美琴にだけ手招きをする。
美琴はちょこちょこっと俺の近くに来てくれて、「令、ありがとね。詳しくはまた後で話すから…」と俺にだけ聞こえるように言ってくれた。
「それはいいんだけどさ、あの、その、ほんとにあの中の誰かと付き合ってるわけじゃないんだよね…?」
さっき聞いた質問なのに…。
確証が欲しくて改めて聞いてしまった…。
美琴の顔をじっと見つめる。
「さっきも言ったけど違うってば。私告白とかされたことないし、したこともない」
「念のためっていうか…」
ほっ。
よかった…。
美琴は俺の初恋。
結構アプローチしてるけど、あまりにも俺の好意に気づかなくて…。
部活のない日に一緒に帰ったり、休みの日に美琴の家にご飯を食べに行ったり、近くにいても心の距離は縮まらない。
強豪校から「剣道でうちに来ないか?」と言われたときも、美琴と同じ中学に通えなくなるのが嫌で断ったし…。
美琴には「遠いからやめたんだ」と伝えたけど。
重いのか、俺って…。
それに、美琴は俺のことどう思ってるんだろうか。
ずっと聞きたいのに勇気がなくて聞くことができないでいる。
「ほんとに鎌倉くんはもちろん、ほかのふたりともただのクラスメイトだよ」
美琴が念押しする。
「わかった、何度も聞いてごめん」
俺が頭を下げると、その上から声がする。
「令は告白されることが日常だと思うけど、私にとって告白するとかされるとか、次の日雪が降るレベルで起こり得ないから」
はあ。
またこれだ。
美琴が告白されないのは、俺が告白されないように、近くにいて、彼氏っぽく振る舞ってるのが理由なんだよ。
「美琴は分かってないんだよ」
「なにを?」
すっとんきょうな顔をして俺の目を見つめる美琴。
俺はそれだけで心臓が飛び出そうなのに。
「自分の魅力を!」
少し強めの声で言ってしまう。
すると、みるみる呆れ顔になる美琴。
「とにかく、彼氏はいないし、好きな人もいないから。安心して」
そう言って、俺を宥める。
今日は3人の男と一緒に帰るって言うし。
そんなの今までなかっただろ。
まだまだ納得してないけど。
「…信じるぞ」
あまり長居はできないから「また明日ね」と部活に戻った。
ほんと鈍すぎて困る。
俺の気持ちが全く分かってないんだ。
でも、気持ちを伝えてこの関係が崩れてしまうのを怖がっている自分もいる。
いつになったら伝えられるんだろう。
振り向いてもらえるんだろう。
好きだよーー美琴。
心の中でそう呟いた。


