「十代の期待に応えて、『逆ハ―ユニット』結成します!」
このグループはプロデューサーのそんな一言から始まった。
「なんやねんですか、それ!」
うっ……ついつい関西弁が…
「人気急上昇中のあなたたちで逆ハーユニットを組むのよ!これは間違いなく売れるわ!」
逆ハ―?
隣の男の子五人をちらっと見る。
「あの…逆ハーとは……」
「んもぅ、知らないの!?ハーレムとは多くの女の子が男の子に詰め寄る!まさにその反対を意味するから逆ハーレム略して逆ハーよ!!」
お、おぉ……?そうなんだ…(よくわからないけど)…
???
みんなが私を好き、という設定…?ムズカシイ…よ…。
「つまり、一人の女の子に複数の男の子たちが好意を寄せていることを意味差します。そしてあなたたちはその設定のもと、アイドルユニットとして活動するのです」
???
な、なるほど……それを私たちにしろ、と……。
「無理」
そんな冷たい声が聞こえてちらりと横目で見てみると黒髪の男の子が無表情。
「なぁーに言ってんの『ソウ』ったら!もう決まったことよ!それにファンに喜んでもらいたいでしょう!?」
キラキラとした目でこちらをみるプロデューサー……。
そうだなぁ……私もできればやりたくは、ない……。
「ねっ?やるでしょ!?やってくれたらお菓子にスイーツ、ジュース山ほど買ったげるからさ!もちろん、スイーツビュッフェ券も用意するわよ」
っ………!
「っ……やりますっ!!」
言っちゃった~……うわぁ…。
隣を恐る恐る見るとそこにはめっちゃくっちゃに仏頂面のお顔………
「そんな顔だとせっかくのお顔が台無しですよ」だなんていう度胸を私は持ち合わせておりません!!
「よしっ!決まり!いやぁ~由愛ちゃんがちょろくて助かったわ!」
そういってグッと親指を突き立てるプロデューサー……って、今、間違いなく「ちょろくて」って言ったやんな!?
この地獄耳、拾ったわ!!
やっぱ、やらな……
「そうと決まったらメディアも近いうちいれなくっちゃ!」
めっちゃ始まってる!!
無理だと首を振ろうとすると、ファンのみんなの笑顔が浮かんだ。
私には……応援してくれてる人がいっぱいいる。
プロデューサーだってファンを喜ばせたい。そんな気持ちがあるから私たちを結成させたんだ。
「頑張ります……!」
必然的にそんな言葉がこぼれた。
「おいおい…マジかよー」
ぼそぼそと呟く男の子たち多数…。
「大丈夫!あなた達なら、間違いなく大人気ユニットになれるわ!あなたたちのユニット名は……
six-leaf clover、よ!!」
シックスリーフ、くろーばー?
「六人で一つ!クローバーは一枚一枚、一点に集まっているでしょう?そんなクローバーのように互いのキャラを尊重しながら六人で一つのグループになってほしい、そう願いを込めたのよ。どう?」
素敵……
「あなた達には期待してるわ!ってことで第一弾のコンセプトは…ずばり!悪魔天使!」
悪魔…天使…。
な…なにそれ…。
「男子五人は悪魔!由愛ちゃんが可愛い天使!」
天使やるの…?私……なんだかとても自身がないんですけど…。
「あ!ほら木村ちゃん、早く告知の準備に取り掛かって!」
プロデューサーが隣眼鏡をかけなおす木村さんに向かって叫んだ。
「承知しました」
それだけ言うとバインダーを片手に何かを考えながら出て行ってしまった。
「そうと決まればデビュー曲を聞かせてあげるわ!」
もう、デビュー曲決まってたの…!?
「これよ」
私たちにパソコンを向けてカチッとマウスを押した。
思わず体が動き出しそうなリズムに中毒性のあるサビといい、悪魔と天使の世界観にぴったりな低いパートと高い可愛らしいパート。
音楽は終わったというのに、続きが知りたくなるほどに曲にのめりこんだ。
「どう?可愛くて、かっこいいでしょ?」
「っ…はいっ!もう…最高でした…!」
気づけば、まだ夢の中にいるような気分でうっとりとそう答えていた。
「あらぁ~由愛ちゃんもう早速ダンスやりたい感じ?そうよねぇ~?」
ん?別にそこまでは言っていないような…
「そうと決まればスタジオも取ったのよ!みんなでダンスで絆でも深めてきなさい!」
……っ早いんですよ、プロデューサー!
ほら、見てよ、この顔!
隣の黒髪さんはもう遠くを見つめて険しい顔しちゃってるし。
その隣は眠そうだし、その隣は明らかにイラついてるし、その隣は全く興味なさそうにしながらお菓子食べちゃってるし!その隣は無言でキラキラスマイル!
こんな状態でダンスをしろとでも!?
「ほら、ダンス動画はこっちよ!」
そう言ってマウスを押す前に間髪を入れる。
「ストーップ!ちょ、ちょっと待ってください!展開が速いです!早すぎて…ほら、みて!皆さんの顔!」
「なーに言ってるのよ!一週間後には武道館でのデビューライブがあるのよ?」
Rotating……再起動中…
無理……情報量多すぎ…。
「無理です!無理ですよ!!早すぎます!私たちさっき、作られたばっかのグループですよね!?もし、私たちが組まないっていったらどうなってたんですか!?」
「えー絶対やると確信してたから、考えてなかった!」
てへっと舌を出しながらペコちゃんポーズまでされると、もう、言葉も何も出てこないよ……。
無理…だよ…そんなの……
「なーにビビってんのよ!貴方たちはアイドル。……ファンの笑顔のためだけに歌うことがあなた達の宿命よ」
そうだった。
私はアイドル。
無理かどうかの前に私はアイドル。
でも……今の私たちにファンの笑顔にできる”力”はある?
グループとしての団結力はあるの?
ないよ…だって…たった今じゃんか。
「無理って顔ね」
チラッと私を見ながら机に肘をついた。
「できないと思うことを可能にするか、不可能にするかは貴方たち次第よ」
「そんなの…無理で…大体プロデューサーは…話が速くて……」
「”無理”だと分かっているグループにわざわざこんなことしないわよ。貴方たちなら…できると信じているからよ」
私たちなら…できる…?
私たちはあと一週間でファンを笑顔にできる実力を見出すことはできるの?
一週間なんてほんの一瞬だよ?
学校だってある。
コンセプトの意味と歌詞への感情移入、読み取り、表情管理、ダンスの魅力を最大限に見出す。
それを…一週間でクリアすることはできる?
完璧に仕上げることはできる?
現実的に考えたらそんなの不可能だ。
適当にやってアイドルしてるわけじゃない。
作詞家さん、作曲家さん、振付師さん、プロデューサーが決めた今回のコンセプト。
全ての想いを背負ってできるのが真の”アイドル”。
それを一週間だなんて無茶だ。
プロデューサーはそれを一週間でやれる、と言い張る。
だてにもここはプロ。
私は”アイドル”のプロ。
ファンの笑顔を…ファンの想いを全部かなえてみせるのがアイドル。
そんなアイドルに、私は…救われてきた。
歌って踊って幸せを届ける。
いいかもしれない。
やってやりたい。
”完璧”に踊って歌う”最高”のアイドル。
「っ……やり、ます。逆ハーアイドル、やってみせます」
「……その調子よ、由愛。いや…そうね……センターかしら」
そう言ってプロデューサーは八重歯をのぞかせて豪快に笑った。
後ろを向くとみんながポカン、とした顔で私を見つめていた。
「……一週間でアイドルやれ、なんて無茶すぎるでしょ」
「一週間とか無理だろ」
「んー…面白いね、キミ」
「…………」
「…………」
……バラバラ。
当たり前だ。
さっき結成されたグループだもん、当然。
……最初っからうまくいってたらつまんないよ、人生。
かつて大好きだったアイドルはそう言った。
その言葉が私には…響いた。
最初からうまくいってたら、できた時の喜びなんて薄っぺらいものだ。
歌って踊って誰よりも輝くセンターは私。
そう強気でいれば。
想いは……
―――届く。
○○スタジオダンス練習室。
悪魔と天使。それぞれ表す世界観は異なるけれど、どこかでつながっている。
そんな振り付けだ。
ダンスはみんな完璧で細部までみんな動画通りに再現できている。
それなのに。
”何か”が足りない。
決定的に”何か”が足りない。
「はーほんっと面倒。こっちは金稼ぐ一択でやってんのに」
金稼ぐ、って………
「まーアイドルって稼げると思ってたけど全部メンバーで分けないとだしねー」
ため息交じりにそう落とされる言葉たち。
………違う、違うのに。
アイドルは……そんな…安っぽいもんなんかじゃ、ないのに……。
お金じゃ、ファンは買えない。
ファンを笑顔にはできない。
アイドルはお金のための職業じゃない。
ファンの笑顔を…ファンに希望を…夢を届ける仕事。
アイドルを馬鹿にするな。アイドルは……こんなにも光り輝くものなのに……。
そうだ。私たちのダンスが上手くいかないのは…感情がこもってないから。
ダンスを再現するだけで想いがないから。
明確に伝わる…”何か”が決定的に足りないから。
そうだ……
「みんなが…アイドルやる理由って…お金?」
「そうだけどー」
「それ以外なくない?」
「金になる仕事だからに決まってんじゃん」
お金…お金…お金っ!!
「っ…そんなにお金が大事!?」
「……金は大事。ないと、生きていけない」
ずっと黙っていた黒髪の男の子『ソウ』くんが座りながらぼそっと呟いた。
お金……そう、やっぱり…お金……
「…だけど、違う。俺は……馬鹿にしてきた奴らを見返すため。歌って踊って……
―――復讐するため」
復讐、見返す……
その瞳は強い想いが宿っていた。
……本当にそれだけのために…がむしゃらにこの業界にしがみついている。
そんな強くて……弱い、瞳だった。
確かに『ソウ』くんのダンスは完璧だった。
だけど……このままじゃ、”最高”のパフォーマンスはできない。
みんなが一つになる方法。
今の私たちに足りないものをあと六日で完璧にするにはどうしたらいい?
…何をしたら、私たちは一つになれる?
*―――*
―――「由愛、おはよ~」
「おはよ」
「……仏頂面だぞ~?何、上手くいってないの?」
そう言ってむにゅっとほっぺをつまんできた。
「んー……まぁ…」
「はっはーん、聞いたよー?一週間後、デビューライブやるんだって?」
「……うん…」
笑いながら呑気に手を叩く実藍のことアイドルグループ『さいっきゅー』の緑担当、実藍。
「いやぁ、ほんと破天荒なプロデューサーだよねぇ~うちの事務所だったらありえないもんー」
第一ボタンを外して雑にまかれただけのリボンに何回も折ってあるスカート。巻き髪は降ろしてネックレスまでつけている。
注意なんて飛んでくるほどの学校ではないし、アイドルやインフルエンサーなど表に出る仕事を目指す高校生のために作られた学校。
偏差値は高くも低くもない。
アイドルに偏差値は必要ないから。
ほとんど授業は出ない生徒がほとんどだし、それも仕事で。
一応、高校一年生、由愛としてこの学校に在籍している。
ちなみにこの学校は恋愛禁止…まぁ考えれば当たり前のルールなのだけれど。
スキャンダルでメディアに取り上げられてしまってはたまったもんじゃない。
実際、学校の教師がスパイみたいな役割で新聞記者、なんてこともある。
だから、恋愛禁止。
どこに敵が隠れているかなんてわからないから。
「……全然上手くいかない…」
そんなことを呟く私をじっと見つめた。
「でも、今日撮影なんでしょ?」
そうだった。
今日はデビュー撮影がある。
プロデューサーが考えてくれた『悪魔天使』のコンセプトでPR撮影がある。
「そこで思いっきり男子たちの弱点を見つければいいのよ!」
はい?
「弱点って……」
「それさえ掴めればグループとして一つになれるヒント、思いつくかもよ」
弱点……いいかもしれない。
「ねーそれよりさ聞いてよーうちのセンターがさー」
思い立ったらすぐ行動しないと!
「じゃあね、また!」
「え!?は?ちょっと待ちなさいよ!私の話聞けーーっ!!!」
後ろで困惑する実藍を置いて教室を飛び出すとマネージャーさんに電話をかけて校門の前に車を停めてもらうように頼んだ。
『え?今から?撮影はまだ…』
「じゃあねっ」
そう言って半ば強引に電話を切ると車をすっ飛ばしてもらった。
事務所の厳重なゲートを潜り抜けた末、私は今プロデューサーの部屋……
「ちょっと由愛ちゃん?まだ撮影は……」
「弱点!弱点教えてください!」
「弱点?何で……」
「みんなのです!」
メモ帳もばっちりプロデューサーを見つめた。
「急に何?というか学校はどうしたのよ?」
「いいので!」
「いや良くないわ!……ってまあいいわ。何でそんなのが知りたいのよ」
息を吸ってから、かれこれ熱弁しているとプロデューサーが手のひらでせいしてきた。
「いいわ。分かった。彼らの弱点はお金ね」
やっぱ…金なんかい。
「……そうですか…」
「…でも…彼らの目的がお金であっても……六人で一つになれる方法はあるはずよ。貴方たちなりのやり方がね」
「…それは……!」
「それを…考えるのが貴方の役割でしょう?」
そう言ってどこか懐かしむように私を見るとふふっと笑いながら部屋を出ていった。
何だろう…私たちなりのやり方って……
パタン、と閉められたドアの前でプロデューサーは静かに呟いた。
『……やっぱり……あの子は……
―――間違いなく…スターになる。
そんな呟きは一生懸命頭をひねる少女の耳には届かなかった。
あのまま、あの部屋でひたすら頭をひねっているとあっという間に撮影時間が迫ってきていた。
「由愛ちゃーん?メイクするから準備してねー」
気づけばメイクもドレスアップも完成していた。
「ん~かんわいい~っ!」
手を叩きながら目をキラキラさせるメイクさん。
ちょっと気が強そうなのに可愛らしいパープルメイクに悪魔の角、フリルが特徴的な黒のドレスに胸元に大きなリボンがつけられている。
「あ、そっちメイク終わった~?」
何やらドアから顔を出して廊下の人と話している。
「はい、じゃあせーので行くよー!」
せーの?
一体何の……
そう思っていると部屋の仕切りになっていたカーテンが開いた。
黒いスーツに悪魔っぽい暗めのメイクに一人ずつメンバーカラーに合わせられたピアス。
みんなの姿がいつもよりキラキラしていた。
「いやぁ~んやっぱみんな似合う~」
いつの間に現れたのかプロデューサーが満面の笑みを浮かべながらお休みポーズでうっとりしている。
ま、まぁ……似合っては…いるけど…
何だか急に恥ずかしくなってきた。
「……由愛ちゃんに見とれるのもいいけど、うちのグループ恋愛禁止だからねー」
「…ない。断じて」
『ソウ』くんが無表情でぼそっと呟いた。
ない!?断じて!?
なんかそれはそれで悔しいような…そうでないような…。
「いやぁ由愛たん可愛いわよぉ~ファンが増えちゃう♪」
そういって首元に抱き着いてくるプロデューサーだけど絶対今のは…ファンの方が本命だ。
「さ、じゃあ早速PR撮影行くよー」
「あの、プロデューサー。さっきの……」
やっとわかった。
彼らの弱点。
……こんなやり方、今までの私じゃ考えられなかった。
けれど。
私たちは、私たちのやり方で。
アイドルになりきるから。
―――夢は……
ここからだ。
このグループはプロデューサーのそんな一言から始まった。
「なんやねんですか、それ!」
うっ……ついつい関西弁が…
「人気急上昇中のあなたたちで逆ハーユニットを組むのよ!これは間違いなく売れるわ!」
逆ハ―?
隣の男の子五人をちらっと見る。
「あの…逆ハーとは……」
「んもぅ、知らないの!?ハーレムとは多くの女の子が男の子に詰め寄る!まさにその反対を意味するから逆ハーレム略して逆ハーよ!!」
お、おぉ……?そうなんだ…(よくわからないけど)…
???
みんなが私を好き、という設定…?ムズカシイ…よ…。
「つまり、一人の女の子に複数の男の子たちが好意を寄せていることを意味差します。そしてあなたたちはその設定のもと、アイドルユニットとして活動するのです」
???
な、なるほど……それを私たちにしろ、と……。
「無理」
そんな冷たい声が聞こえてちらりと横目で見てみると黒髪の男の子が無表情。
「なぁーに言ってんの『ソウ』ったら!もう決まったことよ!それにファンに喜んでもらいたいでしょう!?」
キラキラとした目でこちらをみるプロデューサー……。
そうだなぁ……私もできればやりたくは、ない……。
「ねっ?やるでしょ!?やってくれたらお菓子にスイーツ、ジュース山ほど買ったげるからさ!もちろん、スイーツビュッフェ券も用意するわよ」
っ………!
「っ……やりますっ!!」
言っちゃった~……うわぁ…。
隣を恐る恐る見るとそこにはめっちゃくっちゃに仏頂面のお顔………
「そんな顔だとせっかくのお顔が台無しですよ」だなんていう度胸を私は持ち合わせておりません!!
「よしっ!決まり!いやぁ~由愛ちゃんがちょろくて助かったわ!」
そういってグッと親指を突き立てるプロデューサー……って、今、間違いなく「ちょろくて」って言ったやんな!?
この地獄耳、拾ったわ!!
やっぱ、やらな……
「そうと決まったらメディアも近いうちいれなくっちゃ!」
めっちゃ始まってる!!
無理だと首を振ろうとすると、ファンのみんなの笑顔が浮かんだ。
私には……応援してくれてる人がいっぱいいる。
プロデューサーだってファンを喜ばせたい。そんな気持ちがあるから私たちを結成させたんだ。
「頑張ります……!」
必然的にそんな言葉がこぼれた。
「おいおい…マジかよー」
ぼそぼそと呟く男の子たち多数…。
「大丈夫!あなた達なら、間違いなく大人気ユニットになれるわ!あなたたちのユニット名は……
six-leaf clover、よ!!」
シックスリーフ、くろーばー?
「六人で一つ!クローバーは一枚一枚、一点に集まっているでしょう?そんなクローバーのように互いのキャラを尊重しながら六人で一つのグループになってほしい、そう願いを込めたのよ。どう?」
素敵……
「あなた達には期待してるわ!ってことで第一弾のコンセプトは…ずばり!悪魔天使!」
悪魔…天使…。
な…なにそれ…。
「男子五人は悪魔!由愛ちゃんが可愛い天使!」
天使やるの…?私……なんだかとても自身がないんですけど…。
「あ!ほら木村ちゃん、早く告知の準備に取り掛かって!」
プロデューサーが隣眼鏡をかけなおす木村さんに向かって叫んだ。
「承知しました」
それだけ言うとバインダーを片手に何かを考えながら出て行ってしまった。
「そうと決まればデビュー曲を聞かせてあげるわ!」
もう、デビュー曲決まってたの…!?
「これよ」
私たちにパソコンを向けてカチッとマウスを押した。
思わず体が動き出しそうなリズムに中毒性のあるサビといい、悪魔と天使の世界観にぴったりな低いパートと高い可愛らしいパート。
音楽は終わったというのに、続きが知りたくなるほどに曲にのめりこんだ。
「どう?可愛くて、かっこいいでしょ?」
「っ…はいっ!もう…最高でした…!」
気づけば、まだ夢の中にいるような気分でうっとりとそう答えていた。
「あらぁ~由愛ちゃんもう早速ダンスやりたい感じ?そうよねぇ~?」
ん?別にそこまでは言っていないような…
「そうと決まればスタジオも取ったのよ!みんなでダンスで絆でも深めてきなさい!」
……っ早いんですよ、プロデューサー!
ほら、見てよ、この顔!
隣の黒髪さんはもう遠くを見つめて険しい顔しちゃってるし。
その隣は眠そうだし、その隣は明らかにイラついてるし、その隣は全く興味なさそうにしながらお菓子食べちゃってるし!その隣は無言でキラキラスマイル!
こんな状態でダンスをしろとでも!?
「ほら、ダンス動画はこっちよ!」
そう言ってマウスを押す前に間髪を入れる。
「ストーップ!ちょ、ちょっと待ってください!展開が速いです!早すぎて…ほら、みて!皆さんの顔!」
「なーに言ってるのよ!一週間後には武道館でのデビューライブがあるのよ?」
Rotating……再起動中…
無理……情報量多すぎ…。
「無理です!無理ですよ!!早すぎます!私たちさっき、作られたばっかのグループですよね!?もし、私たちが組まないっていったらどうなってたんですか!?」
「えー絶対やると確信してたから、考えてなかった!」
てへっと舌を出しながらペコちゃんポーズまでされると、もう、言葉も何も出てこないよ……。
無理…だよ…そんなの……
「なーにビビってんのよ!貴方たちはアイドル。……ファンの笑顔のためだけに歌うことがあなた達の宿命よ」
そうだった。
私はアイドル。
無理かどうかの前に私はアイドル。
でも……今の私たちにファンの笑顔にできる”力”はある?
グループとしての団結力はあるの?
ないよ…だって…たった今じゃんか。
「無理って顔ね」
チラッと私を見ながら机に肘をついた。
「できないと思うことを可能にするか、不可能にするかは貴方たち次第よ」
「そんなの…無理で…大体プロデューサーは…話が速くて……」
「”無理”だと分かっているグループにわざわざこんなことしないわよ。貴方たちなら…できると信じているからよ」
私たちなら…できる…?
私たちはあと一週間でファンを笑顔にできる実力を見出すことはできるの?
一週間なんてほんの一瞬だよ?
学校だってある。
コンセプトの意味と歌詞への感情移入、読み取り、表情管理、ダンスの魅力を最大限に見出す。
それを…一週間でクリアすることはできる?
完璧に仕上げることはできる?
現実的に考えたらそんなの不可能だ。
適当にやってアイドルしてるわけじゃない。
作詞家さん、作曲家さん、振付師さん、プロデューサーが決めた今回のコンセプト。
全ての想いを背負ってできるのが真の”アイドル”。
それを一週間だなんて無茶だ。
プロデューサーはそれを一週間でやれる、と言い張る。
だてにもここはプロ。
私は”アイドル”のプロ。
ファンの笑顔を…ファンの想いを全部かなえてみせるのがアイドル。
そんなアイドルに、私は…救われてきた。
歌って踊って幸せを届ける。
いいかもしれない。
やってやりたい。
”完璧”に踊って歌う”最高”のアイドル。
「っ……やり、ます。逆ハーアイドル、やってみせます」
「……その調子よ、由愛。いや…そうね……センターかしら」
そう言ってプロデューサーは八重歯をのぞかせて豪快に笑った。
後ろを向くとみんながポカン、とした顔で私を見つめていた。
「……一週間でアイドルやれ、なんて無茶すぎるでしょ」
「一週間とか無理だろ」
「んー…面白いね、キミ」
「…………」
「…………」
……バラバラ。
当たり前だ。
さっき結成されたグループだもん、当然。
……最初っからうまくいってたらつまんないよ、人生。
かつて大好きだったアイドルはそう言った。
その言葉が私には…響いた。
最初からうまくいってたら、できた時の喜びなんて薄っぺらいものだ。
歌って踊って誰よりも輝くセンターは私。
そう強気でいれば。
想いは……
―――届く。
○○スタジオダンス練習室。
悪魔と天使。それぞれ表す世界観は異なるけれど、どこかでつながっている。
そんな振り付けだ。
ダンスはみんな完璧で細部までみんな動画通りに再現できている。
それなのに。
”何か”が足りない。
決定的に”何か”が足りない。
「はーほんっと面倒。こっちは金稼ぐ一択でやってんのに」
金稼ぐ、って………
「まーアイドルって稼げると思ってたけど全部メンバーで分けないとだしねー」
ため息交じりにそう落とされる言葉たち。
………違う、違うのに。
アイドルは……そんな…安っぽいもんなんかじゃ、ないのに……。
お金じゃ、ファンは買えない。
ファンを笑顔にはできない。
アイドルはお金のための職業じゃない。
ファンの笑顔を…ファンに希望を…夢を届ける仕事。
アイドルを馬鹿にするな。アイドルは……こんなにも光り輝くものなのに……。
そうだ。私たちのダンスが上手くいかないのは…感情がこもってないから。
ダンスを再現するだけで想いがないから。
明確に伝わる…”何か”が決定的に足りないから。
そうだ……
「みんなが…アイドルやる理由って…お金?」
「そうだけどー」
「それ以外なくない?」
「金になる仕事だからに決まってんじゃん」
お金…お金…お金っ!!
「っ…そんなにお金が大事!?」
「……金は大事。ないと、生きていけない」
ずっと黙っていた黒髪の男の子『ソウ』くんが座りながらぼそっと呟いた。
お金……そう、やっぱり…お金……
「…だけど、違う。俺は……馬鹿にしてきた奴らを見返すため。歌って踊って……
―――復讐するため」
復讐、見返す……
その瞳は強い想いが宿っていた。
……本当にそれだけのために…がむしゃらにこの業界にしがみついている。
そんな強くて……弱い、瞳だった。
確かに『ソウ』くんのダンスは完璧だった。
だけど……このままじゃ、”最高”のパフォーマンスはできない。
みんなが一つになる方法。
今の私たちに足りないものをあと六日で完璧にするにはどうしたらいい?
…何をしたら、私たちは一つになれる?
*―――*
―――「由愛、おはよ~」
「おはよ」
「……仏頂面だぞ~?何、上手くいってないの?」
そう言ってむにゅっとほっぺをつまんできた。
「んー……まぁ…」
「はっはーん、聞いたよー?一週間後、デビューライブやるんだって?」
「……うん…」
笑いながら呑気に手を叩く実藍のことアイドルグループ『さいっきゅー』の緑担当、実藍。
「いやぁ、ほんと破天荒なプロデューサーだよねぇ~うちの事務所だったらありえないもんー」
第一ボタンを外して雑にまかれただけのリボンに何回も折ってあるスカート。巻き髪は降ろしてネックレスまでつけている。
注意なんて飛んでくるほどの学校ではないし、アイドルやインフルエンサーなど表に出る仕事を目指す高校生のために作られた学校。
偏差値は高くも低くもない。
アイドルに偏差値は必要ないから。
ほとんど授業は出ない生徒がほとんどだし、それも仕事で。
一応、高校一年生、由愛としてこの学校に在籍している。
ちなみにこの学校は恋愛禁止…まぁ考えれば当たり前のルールなのだけれど。
スキャンダルでメディアに取り上げられてしまってはたまったもんじゃない。
実際、学校の教師がスパイみたいな役割で新聞記者、なんてこともある。
だから、恋愛禁止。
どこに敵が隠れているかなんてわからないから。
「……全然上手くいかない…」
そんなことを呟く私をじっと見つめた。
「でも、今日撮影なんでしょ?」
そうだった。
今日はデビュー撮影がある。
プロデューサーが考えてくれた『悪魔天使』のコンセプトでPR撮影がある。
「そこで思いっきり男子たちの弱点を見つければいいのよ!」
はい?
「弱点って……」
「それさえ掴めればグループとして一つになれるヒント、思いつくかもよ」
弱点……いいかもしれない。
「ねーそれよりさ聞いてよーうちのセンターがさー」
思い立ったらすぐ行動しないと!
「じゃあね、また!」
「え!?は?ちょっと待ちなさいよ!私の話聞けーーっ!!!」
後ろで困惑する実藍を置いて教室を飛び出すとマネージャーさんに電話をかけて校門の前に車を停めてもらうように頼んだ。
『え?今から?撮影はまだ…』
「じゃあねっ」
そう言って半ば強引に電話を切ると車をすっ飛ばしてもらった。
事務所の厳重なゲートを潜り抜けた末、私は今プロデューサーの部屋……
「ちょっと由愛ちゃん?まだ撮影は……」
「弱点!弱点教えてください!」
「弱点?何で……」
「みんなのです!」
メモ帳もばっちりプロデューサーを見つめた。
「急に何?というか学校はどうしたのよ?」
「いいので!」
「いや良くないわ!……ってまあいいわ。何でそんなのが知りたいのよ」
息を吸ってから、かれこれ熱弁しているとプロデューサーが手のひらでせいしてきた。
「いいわ。分かった。彼らの弱点はお金ね」
やっぱ…金なんかい。
「……そうですか…」
「…でも…彼らの目的がお金であっても……六人で一つになれる方法はあるはずよ。貴方たちなりのやり方がね」
「…それは……!」
「それを…考えるのが貴方の役割でしょう?」
そう言ってどこか懐かしむように私を見るとふふっと笑いながら部屋を出ていった。
何だろう…私たちなりのやり方って……
パタン、と閉められたドアの前でプロデューサーは静かに呟いた。
『……やっぱり……あの子は……
―――間違いなく…スターになる。
そんな呟きは一生懸命頭をひねる少女の耳には届かなかった。
あのまま、あの部屋でひたすら頭をひねっているとあっという間に撮影時間が迫ってきていた。
「由愛ちゃーん?メイクするから準備してねー」
気づけばメイクもドレスアップも完成していた。
「ん~かんわいい~っ!」
手を叩きながら目をキラキラさせるメイクさん。
ちょっと気が強そうなのに可愛らしいパープルメイクに悪魔の角、フリルが特徴的な黒のドレスに胸元に大きなリボンがつけられている。
「あ、そっちメイク終わった~?」
何やらドアから顔を出して廊下の人と話している。
「はい、じゃあせーので行くよー!」
せーの?
一体何の……
そう思っていると部屋の仕切りになっていたカーテンが開いた。
黒いスーツに悪魔っぽい暗めのメイクに一人ずつメンバーカラーに合わせられたピアス。
みんなの姿がいつもよりキラキラしていた。
「いやぁ~んやっぱみんな似合う~」
いつの間に現れたのかプロデューサーが満面の笑みを浮かべながらお休みポーズでうっとりしている。
ま、まぁ……似合っては…いるけど…
何だか急に恥ずかしくなってきた。
「……由愛ちゃんに見とれるのもいいけど、うちのグループ恋愛禁止だからねー」
「…ない。断じて」
『ソウ』くんが無表情でぼそっと呟いた。
ない!?断じて!?
なんかそれはそれで悔しいような…そうでないような…。
「いやぁ由愛たん可愛いわよぉ~ファンが増えちゃう♪」
そういって首元に抱き着いてくるプロデューサーだけど絶対今のは…ファンの方が本命だ。
「さ、じゃあ早速PR撮影行くよー」
「あの、プロデューサー。さっきの……」
やっとわかった。
彼らの弱点。
……こんなやり方、今までの私じゃ考えられなかった。
けれど。
私たちは、私たちのやり方で。
アイドルになりきるから。
―――夢は……
ここからだ。



