「菜由!今日は帰り大丈夫なのー?」
体育館の隅。
唯一外の光が差し込む、重たい出入口の扉のすぐ近くで、私は顔を上げた。
外では一年生が担当していた入り口のアーチが組み立てられている。
完成間近になって花飾りが足りないことが分かり、私はその追加分を作る手伝いをしているところだった。
「うん。今日はお母さん夕方までのシフトだから、迎え来れるの」
「そ!よかった。こういう作業は菜由がいないと〜」
にこにこと笑うひまりの隣で、ふうかが苦笑する。
「ひまりは細かい作業苦手だからね」
「悔しいけどおっしゃるとおりです……」
ひまりが掲げたゆがんだ花に、思わず吹き出した。
ひまりとふうかに病気のことを打ち明けてから、私は少しだけ肩の力を抜けるようになった。
見えないことを隠そうとして無理をしたり、平気なふりをしたり。
そんなことをしなくてもいいと思える瞬間が増えた。
ステージでは軽音部が最後のリハーサルを行っている。
発表用の照明だけが点いていて、客席側の照明は落とされたまま。
広い体育館の中は薄暗く、遠くでは人影がぼんやりと動いていた。
そんな中で、私が入口近くの作業を担当しているのも、自然とそう促してくれたふたりのおかげだった。
「ひまりー!そこから見てどう!?」
遠くから晴斗くんの大声が聞こえてきて、私たちは一斉に顔を上げる。
私たちがいる入り口の真正面では、垂れ幕の取り付け作業が進んでいた。
「歪んでるよね?」
「うん……ちょっと右かも」
見上げると、二階のギャラリーに上がっている泰ちゃんと晴斗くんがこちらを見下ろす。
「泰史の方、もっと上げてー!」
ひまりはそう叫ぶと、確認するために立ち上がった。
その後ろ姿を、ふうかがくすくす笑いながら見送る。
「綺麗にできたね〜〜。見える?」
「うん、ちょっと暗いけど」
入り口から差し込む夕方の光のおかげで、垂れ幕はちょうど見やすかった。
紺色の大きな布いっぱいに散らした銀色のラメ。
その中に描かれた、いくつもの白い星。
文化祭のテーマに合わせてみんなで考えたデザインだけど、私はその景色を見るたびに思い出してしまう。
あの日、夜の公園で、泰ちゃんが写真にとって見せてくれた星空を。
スマホのロック画面に設定しているその写真を、私は毎日のように見ている。
黒い空に散らばる無数の光。
あの日見せてもらった景色は、今でも胸の奥で特別なままだった。
だからこそ、遠く先にいる泰ちゃんを見ると、少しだけ苦しくなる。
泰ちゃんは晴斗くんたちと何か言い合いながら、楽しそうに笑っていた。
その笑い声を聞くたびに、私の選択は間違っていないと思うけれど、どこか寂しい気持ちは誤魔化すことができなかった。
体育館の隅。
唯一外の光が差し込む、重たい出入口の扉のすぐ近くで、私は顔を上げた。
外では一年生が担当していた入り口のアーチが組み立てられている。
完成間近になって花飾りが足りないことが分かり、私はその追加分を作る手伝いをしているところだった。
「うん。今日はお母さん夕方までのシフトだから、迎え来れるの」
「そ!よかった。こういう作業は菜由がいないと〜」
にこにこと笑うひまりの隣で、ふうかが苦笑する。
「ひまりは細かい作業苦手だからね」
「悔しいけどおっしゃるとおりです……」
ひまりが掲げたゆがんだ花に、思わず吹き出した。
ひまりとふうかに病気のことを打ち明けてから、私は少しだけ肩の力を抜けるようになった。
見えないことを隠そうとして無理をしたり、平気なふりをしたり。
そんなことをしなくてもいいと思える瞬間が増えた。
ステージでは軽音部が最後のリハーサルを行っている。
発表用の照明だけが点いていて、客席側の照明は落とされたまま。
広い体育館の中は薄暗く、遠くでは人影がぼんやりと動いていた。
そんな中で、私が入口近くの作業を担当しているのも、自然とそう促してくれたふたりのおかげだった。
「ひまりー!そこから見てどう!?」
遠くから晴斗くんの大声が聞こえてきて、私たちは一斉に顔を上げる。
私たちがいる入り口の真正面では、垂れ幕の取り付け作業が進んでいた。
「歪んでるよね?」
「うん……ちょっと右かも」
見上げると、二階のギャラリーに上がっている泰ちゃんと晴斗くんがこちらを見下ろす。
「泰史の方、もっと上げてー!」
ひまりはそう叫ぶと、確認するために立ち上がった。
その後ろ姿を、ふうかがくすくす笑いながら見送る。
「綺麗にできたね〜〜。見える?」
「うん、ちょっと暗いけど」
入り口から差し込む夕方の光のおかげで、垂れ幕はちょうど見やすかった。
紺色の大きな布いっぱいに散らした銀色のラメ。
その中に描かれた、いくつもの白い星。
文化祭のテーマに合わせてみんなで考えたデザインだけど、私はその景色を見るたびに思い出してしまう。
あの日、夜の公園で、泰ちゃんが写真にとって見せてくれた星空を。
スマホのロック画面に設定しているその写真を、私は毎日のように見ている。
黒い空に散らばる無数の光。
あの日見せてもらった景色は、今でも胸の奥で特別なままだった。
だからこそ、遠く先にいる泰ちゃんを見ると、少しだけ苦しくなる。
泰ちゃんは晴斗くんたちと何か言い合いながら、楽しそうに笑っていた。
その笑い声を聞くたびに、私の選択は間違っていないと思うけれど、どこか寂しい気持ちは誤魔化すことができなかった。



