そのあと私は、ずっと隠していたことを、ぽつりぽつりとふたりに打ち明けた。
暗いところが見えないこと。
最近は、前より少しずつ昼も見えづらくなっていること。
詳しい病気のことまでは言えなかったけど、それでも言葉にするたび、胸の奥がじわじわ冷えていく。
こんな話をしたら、きっと困らせる。
そんな不安が消えなくて、私は何度も俯きながら、小さな声で「ごめん」を繰り返した。
しばらく静かに聞いていたひまりは、ぐしゃっと顔を歪める。
「……早く言ってよ」
怒っていると思ったけど、その目には涙が滲んでいた。
「そんなの、一人で抱えるの無理じゃん」
ひまりはそう言いながら、しゃがみこんだ私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「菜由が抱え込む子って知ってたのに。もっと早く聞いたら良かった」
その言葉に、また涙が零れそうになって、私は慌てて首を横に振った。
「ちが、っ……ふたりは悪くない」
掠れた声でそう言うと、今度はふうかが小さく笑った。
「菜由だもん。言う方が苦しかったんでしょ」
私にとことん寄り添ってくれるふうからしい優しい声だった。
だけど、その笑顔は少しだけ寂しそうで、胸の奥がまた痛くなる。
「……ごめんね」
そう呟いて、私はぎゅっと制服の袖を握った。
「話したら、ずっと気にさせちゃうって思って」
震える声のまま、ぽつりと続ける。
迷惑をかけたくなかった。
普通に笑って、一緒にいたかった。
なのに、自分のせいで、ふたりの日常まで変えてしまいそうで怖かった。
そんな思いを途切れ途切れにぶつけると、不意にひまりが私の肩をがしっと掴む。
「あのね、私たちからしたら菜由がいない方が、おかしいんだからね?」
まっすぐぶつけられた言葉に、私は目を丸くして瞬きを繰り返す。
「ねぇふうか」
ひまりに振られたふうかも、やわらかく頷いた。
「菜由と一緒にいたいだけ。そのために、助けになりたいって思うんだよ」
当たり前みたいに笑うふたりに、私は何も言えなくなる。
そんなふうに言ってもらえるなんて、思っていなかった。
「ありがとう」
やっと、心の底から言えたその言葉に胸が温かくなる。
「最近の、泰史との感じも、それが関係してるの?」
少し和らいだ空気の中、不意にふうかにそう聞かれて、私はゆっくりと顔を上げた。
「なーんか、泰史が振られたって聞きましたけど?」
視線の先では、ひまりがにやりとしながらこちらを見つめている。
「し、知ってたの……!?」
思わず眉を下げた私に、ひまりは呆れた顔を向けた。
「だって明らかにおかしかったんだもんふたり。いい感じって思ってたのに急に昔みたいによそよそしくなって」
「菜由も、あからさまに避けてたからね」
ふうかまで追い打ちをかけてきて、私は言葉を詰まらせる。
「……っ、だって……」
視線を落とした瞬間、夕焼けの坂道で泣きそうな顔をしていた泰ちゃんが頭に浮かんだ。
『……好きなんだよ』
胸の奥がきゅうっと痛くなって、手のひらを当てる。
「……泰ちゃんにも、迷惑、かけたくなくて」
やっと絞り出した声は、弱々しく落ちていく。
その言葉にふたりは顔を見合わせて、それからひまりが代表するみたいに大きくため息を吐いた。
「菜由、さっきからさ、自分だけで決めすぎじゃない?」
「……え」
「その理由だって、どうせ泰史には話してないんでしょ」
不意に頬を摘まれて、私は目を丸くする。
「私、さっきの話、ちょっと怒ってるよ!菜由のこと迷惑って思うわけないのに、勝手にそう思われてたこと!」
まっすぐぶつけられた言葉に、呼吸が止まった。
「よく言ってくれました、ひまりさん」
ふうかもふざけたように腕を組んで、くすりと笑う。
「私たちと同じように。泰史も、聞いてみないとわからないね?」
ひまりとふうかは、きっと大丈夫だよと伝えるみたいに、私へ笑いかけてくれていた。
それでも私は、簡単には答えを出せない。
だって、今よりもっと見えなくなる時がくるかもしれない。
今までもずっと、気にかけてくれていた泰ちゃんの優しさを知っているからこそ。
好きだと伝えてくれた、思いを知っているからこそ。
泰ちゃんの未来を奪う可能性があることを、簡単に言うことはできない。
私はそんな気持ちを隠すように、小さくふたりへ笑い返した。
暗いところが見えないこと。
最近は、前より少しずつ昼も見えづらくなっていること。
詳しい病気のことまでは言えなかったけど、それでも言葉にするたび、胸の奥がじわじわ冷えていく。
こんな話をしたら、きっと困らせる。
そんな不安が消えなくて、私は何度も俯きながら、小さな声で「ごめん」を繰り返した。
しばらく静かに聞いていたひまりは、ぐしゃっと顔を歪める。
「……早く言ってよ」
怒っていると思ったけど、その目には涙が滲んでいた。
「そんなの、一人で抱えるの無理じゃん」
ひまりはそう言いながら、しゃがみこんだ私の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「菜由が抱え込む子って知ってたのに。もっと早く聞いたら良かった」
その言葉に、また涙が零れそうになって、私は慌てて首を横に振った。
「ちが、っ……ふたりは悪くない」
掠れた声でそう言うと、今度はふうかが小さく笑った。
「菜由だもん。言う方が苦しかったんでしょ」
私にとことん寄り添ってくれるふうからしい優しい声だった。
だけど、その笑顔は少しだけ寂しそうで、胸の奥がまた痛くなる。
「……ごめんね」
そう呟いて、私はぎゅっと制服の袖を握った。
「話したら、ずっと気にさせちゃうって思って」
震える声のまま、ぽつりと続ける。
迷惑をかけたくなかった。
普通に笑って、一緒にいたかった。
なのに、自分のせいで、ふたりの日常まで変えてしまいそうで怖かった。
そんな思いを途切れ途切れにぶつけると、不意にひまりが私の肩をがしっと掴む。
「あのね、私たちからしたら菜由がいない方が、おかしいんだからね?」
まっすぐぶつけられた言葉に、私は目を丸くして瞬きを繰り返す。
「ねぇふうか」
ひまりに振られたふうかも、やわらかく頷いた。
「菜由と一緒にいたいだけ。そのために、助けになりたいって思うんだよ」
当たり前みたいに笑うふたりに、私は何も言えなくなる。
そんなふうに言ってもらえるなんて、思っていなかった。
「ありがとう」
やっと、心の底から言えたその言葉に胸が温かくなる。
「最近の、泰史との感じも、それが関係してるの?」
少し和らいだ空気の中、不意にふうかにそう聞かれて、私はゆっくりと顔を上げた。
「なーんか、泰史が振られたって聞きましたけど?」
視線の先では、ひまりがにやりとしながらこちらを見つめている。
「し、知ってたの……!?」
思わず眉を下げた私に、ひまりは呆れた顔を向けた。
「だって明らかにおかしかったんだもんふたり。いい感じって思ってたのに急に昔みたいによそよそしくなって」
「菜由も、あからさまに避けてたからね」
ふうかまで追い打ちをかけてきて、私は言葉を詰まらせる。
「……っ、だって……」
視線を落とした瞬間、夕焼けの坂道で泣きそうな顔をしていた泰ちゃんが頭に浮かんだ。
『……好きなんだよ』
胸の奥がきゅうっと痛くなって、手のひらを当てる。
「……泰ちゃんにも、迷惑、かけたくなくて」
やっと絞り出した声は、弱々しく落ちていく。
その言葉にふたりは顔を見合わせて、それからひまりが代表するみたいに大きくため息を吐いた。
「菜由、さっきからさ、自分だけで決めすぎじゃない?」
「……え」
「その理由だって、どうせ泰史には話してないんでしょ」
不意に頬を摘まれて、私は目を丸くする。
「私、さっきの話、ちょっと怒ってるよ!菜由のこと迷惑って思うわけないのに、勝手にそう思われてたこと!」
まっすぐぶつけられた言葉に、呼吸が止まった。
「よく言ってくれました、ひまりさん」
ふうかもふざけたように腕を組んで、くすりと笑う。
「私たちと同じように。泰史も、聞いてみないとわからないね?」
ひまりとふうかは、きっと大丈夫だよと伝えるみたいに、私へ笑いかけてくれていた。
それでも私は、簡単には答えを出せない。
だって、今よりもっと見えなくなる時がくるかもしれない。
今までもずっと、気にかけてくれていた泰ちゃんの優しさを知っているからこそ。
好きだと伝えてくれた、思いを知っているからこそ。
泰ちゃんの未来を奪う可能性があることを、簡単に言うことはできない。
私はそんな気持ちを隠すように、小さくふたりへ笑い返した。



