「……あの」
「はい、何ですか?」
「よければ、あなたの部屋にお邪魔してもいいですか?」

暫し悩んだ末に、香澄はそう口にしていた。
目の前の青年が、道義にもとるような行為をする人には見えなかったから。
だったら部屋で軽く手当てをしてもらって、すぐにお暇すればいい。そう思ったのだ。

「え、っと……はい。大丈夫です」

香澄の申し出にきょとんとしていた青年は、すぐに我に返ってコクコクと頷いた。
その反応が可愛らしく見えて、香澄はつい笑みを漏らしてしまった。

「……恥ずかしいので、そんなに笑わないでください」
「ふふ、ごめんね」

口もとを手の甲で隠しながら、拗ねたような声を出す目の前の男の子は、やっぱり可愛らしい。
香澄はその一瞬、胸の中にあったモヤモヤを忘れ、自分の心が穏やかさで満ちているのを感じていた。