松川雄也とは、半年ほど前、職場の同僚に半ば強引に連れていかれた飲み会という名の合コンの席で出会った。
当時から、香澄は恋愛ごとにそこまでの興味関心がなかった。彼氏を無理に作る必要性も感じていなかった。だからただの数合わせで参加したはずだった。
「沢城香澄さん。一目惚れしました。俺と付き合ってください!」
けれど、まさかの飲みの席で公開告白してきた雄也は、お付き合いはできないと断る香澄に決して諦めることなく、その後もアプローチを続けてきた。その押しに負けるような形で、それから一か月後、雄也との交際は始まったのだ。
雄也と香澄は同い年だ。だらしなく女好きなところはあったけれど、悪い人ではなかったと思う。フランクな性格の雄也は話しやすく、一緒にいて気を遣う必要もなかった。
しかしそこに恋愛感情があったかと言われたら、香澄ははっきり頷くことはできなかった。
だからというわけではないけれど、雄也が浮気していたことに対してそこまでのショックは感じていないし、未練もなかった。それでも、やるせない思いはあるし普通に腹も立つけれど。
(……もういいや。とりあえず、このまま一人で映画を観に行ってから、カフェに行って美味しいものでも食べよう)
今日の予定を決めた香澄は、一階に到着したエレベーターから足を踏み出した。
――まさか、すぐ目の前に人が立っているとは思いもせずに。



