「あーあ、もうちょっと一緒にいたかったなぁ」
「それは俺もだよ。でも、もうすぐで彼女がきちゃうからさ」
「分かってるってぇ。何でも言うこと聞いてくれる、優しい優しい彼女ちゃんでしょ? ふふ、いいなぁ。でも、憂美ともまた遊んでね」
「いいけど、もうウチには来るなよ。アイツ、頻繁に家に出入りしてるからさ。鉢合わせたら面倒だし」
「あは、修羅場ってやつになっちゃうもんねぇ」
緩やかに巻かれた栗色の髪を揺らした女は、二重のぱっちりした目元を細めて楽しそうに笑うと、男の首に手を回した。それに応えるように、男は女のぽってりとした唇に口づけを落とす。
「それじゃあまたね、雄也」
――雄也とは、香澄の彼氏の名前だ。
その光景を離れた場所から黙って見つめていた香澄は、開いていた距離を埋めるように真っ直ぐ足を動かす。
近づく気配に気づいた雄也は、その顔に一瞬、焦りの色を滲ませた、しかしすぐに取り繕うような笑みを浮かべて、ひらりと片手を挙げてみせる。



