10分間で訪れた別れと出会い ~待っていたのは、強引な犬系男子の甘やかな求愛でした~



「だめって言ったらどうするの?」
「んー、後でご褒美をくれるっていうなら、待てもできますけど。それがないなら、我慢できないかもしれません」
「慎くんは、やっぱりワンちゃんなの?」
「香澄さんのワンちゃんになら、一回なってみたいですね。犬の方が、色々と困らせても許してくれそうなので」
「故意的にご主人様を困らせちゃう腹黒いワンちゃんは、私はちょっと嫌かなぁ」

話している間にもゆっくりと迫ってきた慎は、香澄を腕の中に閉じ込めて、楽しそうに笑う。
少し前までは抱きしめられるだけでドキドキしていたけれど、今ではすっかり慣れた。慎が愛用している柔らかなフレグランスの香りも、そばに感じられると心が落ち着く。

「俺は、愛しのご主人様のためなら従順になれる犬ですよ。でも俺は、香澄さんの彼氏ですからね」

香澄の返事を聞く前に唇を塞いできた慎は、もし犬になったとしたって、絶対に従順とは程遠い子であろう。そう断言できる。
だけど、香澄が本気で嫌がることは絶対にしてこない。

――香澄だって、好きな人とは触れ合いたい。キスしたい。
慎もそれを分かってくれているから、こうして香澄の許可を待たずに触れてくる。

伝わってくる甘い熱に酔いしれながら、香澄は考えた。
与えてもらうばかりではなく、言葉でも行動でも、自分も慎に伝えるようにしようと。