「……よし、これでいいかな。今度こそ上手くいくはず」
香澄の話を聞いて目玉焼き作りに再挑戦した慎は、熱したフライパンに卵を二つ落として、満足げに頷いている。
その顔が可愛らしくてつい頭を撫でれば、慎は目を閉じて気持ちよさそうにすり寄ってきた。
その仕草もやっぱり犬っぽくてきゅんとしてしまう。
犬派か猫派か聞かれた時、香澄は特にどちらを選ぶこともなく「どっちも好きかな」と答えていたが、慎と出会ってからは犬の方が好きかも、と思うようになった。
「それじゃあ私はお皿とかを準備しておくね」
慎の頭から手を離した香澄は、背を向けて食器棚に向かう。
けれど慎の手が肩にのせられて、優しい力で引き寄せられた。
「香澄さん、待って」
「ん? どうしたの、って」
振り向けば、唇に触れたのは柔らかな感触で。
「……どうして急にキス?」
「したくなったので」
「リップ、塗ったばっかりだったのに」
「すみません。あとで俺が塗り直しますから」
全然悪びれた様子がない慎は、
「なので、もう一回いいですか?」
と距離を詰めてくる。
……まぁ、買ったばかりのリップの色を試したくて塗っただけで、食事を終えたら、また塗り直すつもりではあったけど。



