10分間で訪れた別れと出会い ~待っていたのは、強引な犬系男子の甘やかな求愛でした~



「……よし、これでいいかな。今度こそ上手くいくはず」

香澄の話を聞いて目玉焼き作りに再挑戦した慎は、熱したフライパンに卵を二つ落として、満足げに頷いている。

その顔が可愛らしくてつい頭を撫でれば、慎は目を閉じて気持ちよさそうにすり寄ってきた。
その仕草もやっぱり犬っぽくてきゅんとしてしまう。

犬派か猫派か聞かれた時、香澄は特にどちらを選ぶこともなく「どっちも好きかな」と答えていたが、慎と出会ってからは犬の方が好きかも、と思うようになった。

「それじゃあ私はお皿とかを準備しておくね」

慎の頭から手を離した香澄は、背を向けて食器棚に向かう。
けれど慎の手が肩にのせられて、優しい力で引き寄せられた。

「香澄さん、待って」
「ん? どうしたの、って」

振り向けば、唇に触れたのは柔らかな感触で。

「……どうして急にキス?」
「したくなったので」
「リップ、塗ったばっかりだったのに」
「すみません。あとで俺が塗り直しますから」

全然悪びれた様子がない慎は、

「なので、もう一回いいですか?」

と距離を詰めてくる。

……まぁ、買ったばかりのリップの色を試したくて塗っただけで、食事を終えたら、また塗り直すつもりではあったけど。