「勘違いしないでもらいたいんですが、俺と香澄さんはついさっき知り合ったばかりですよ。でも俺、絶賛香澄さんにアプローチ中なんです。そこに邪魔な男が言い寄っていたら、牽制したくもなるじゃないですか」
にやりと口角を持ち上げて勝気に笑った慎は、掴んでいた雄也の手を軽く捻り上げる。
「いたたっ……!」
「あとあなた、今“お前も浮気してたのか”って言いましたよね。つまり自分が浮気していたことを認めるってことですか?」
「な、それは……」
図星を突かれた雄也は分かりやすく口ごもる。
「もう香澄さんに近づかないでくださいね」
にこりと笑った慎を睨みつけた雄也は、香澄に視線を移すと「……また連絡する」と言って足早にエレベーターの方に向かって行こうとする。香澄はその背を呼び止めた。
「待って! ……もう連絡してこないでほしい。浮気するような人と今後も付き合っていけるとは思えないから。だから雄也とは、もう別れる。雄也の部屋にある私の物は、全部捨ててもらって構わないから。……今までありがとう」
きっぱりと、そう告げた。
雄也はショックを受けたような顔で何か言いたげにしていたが、香澄の意思が固いことを悟ると、グッと顔を歪めて無言で立ち去った。



