「本当に送っていかなくて大丈夫ですか?」
「うん。蓮見くんが手当てしてくれたおかげで、そこまで痛くないから」
「……分かりました。それじゃあせめて、タクシーで帰ってください」
「いや、でも…「お願いします」
「……うん、分かったよ」
頑固として引かない慎に、香澄は素直に従うことにした。
今日は映画とカフェはなしにして、家でゆっくり休むことにしよう。
慎が手配してくれたタクシーをロビーで待っていれば、外から誰かが入ってきた。背の高い茶髪の男性だ。
その人物の正体に気づいた香澄は、咄嗟に目を逸らしてしまった。
「っ、香澄! と……誰だよ、ソイツ」
けれど相手は、座っている香澄に気づいたらしい。眉根を寄せた不機嫌そうな顔で近づいてくる。
……多分、先ほど一緒にいた女性を送り届けてきた帰りだろう。
そう冷静に分析しながら、香澄は渋々雄也に向き合った。



