「香澄さんを、口説き落とすチャンスです」
「……でも、蓮見くんは私のことをほとんど知らないでしょ? 前から知っていたっていっても、それは外面を見ていたってだけの話で……その気持ちが本当に恋愛感情かどうか、分からないんじゃない?」
元カレである雄也もそうだった。
初対面で交際を申し込まれたが、結局は雄也も、香澄の外見に惹かれただけだ。内面を深く知って好きになってくれたわけではない。
仮に慎とお付き合いをする未来が待っていたとしても、それが上手くいくとは限らない。
「俺は、人を好きになるって、そこまで難しく考えるものじゃないと思うんです。一目惚れって言葉もありますしね。例えば……穏やかな雰囲気が好きとか、長い黒髪が綺麗だとか。好きな食べ物の話を嬉しそうに話してくれる無邪気な顔や、猫舌なのか珈琲をふうふう冷ましている姿も可愛いし、きちんとお礼を言ってくれるところを素敵に思いました。何より笑っている顔を見ると、俺まで幸せな気持ちにさせられます。そういう小さな“いいな”って思える瞬間が積み重なって、それが恋愛感情に変わっていくんだと思うんです。俺はこうして香澄さんと話してみて、あなたのことがもっと好きになりました」
慎の言葉はどこまでも真っ直ぐだ。
香澄は自分の顔が徐々に熱も持っていくのを感じていた。
何か言葉を返したいのに、口を動かしても、声が出てこない。



