「話を聞いて思ったんですけど、それ、香澄さんが気に病む必要は一切ないですよね。そもそも恋人がいるのに浮気する奴が全面的に悪いんですから」
「でも、私に浮気されるような原因があったのかもしれないし……そもそも恋愛感情があるか曖昧なまま付き合うことを了承したから、こんなことになっちゃったのかなとも思ったの」
「それだって、香澄さんが恋愛に興味ないこととか、恋愛感情があるか分からないってことも伝えてたんですよね? 相手はそれでもいいからって強引にアプローチしてきたわけでしょ?」
「うん、それはそうなんだけど……」
「それなら本当に、香澄さんは何一つ悪くないです。相手も承知の上だったんですから。むしろそんな浮気男と別れられて良かったですよ。香澄さんには、もっといい人がいると思います」
慎は香澄の後ろめたい感情を吹き飛ばすように、力強い声で励ましてくれる。
慎とは出会ったばかりだが、彼がそう言ってくれると、本当にその通りかもしれないって気がしてくる。不思議な魅力を持った男の子だ。
「……ありがとう、蓮見くん」
香澄が礼を言えば、目を細めて微笑んだ慎は「飲み物を淹れてきますね。珈琲で大丈夫ですか?」と立ち上がる。
話しながら足の手当てを終えてくれていたらしい。湿布を貼った足首には、包帯が綺麗に巻かれている。



