「いえ、俺は運よく成功しただけなので。まぁ、それでも音楽は好きなので、上手くいかなくても他の仕事をしながら作曲は続けていたと思いますけどね」
「それがすごいんだよ。そこまで夢中になれる好きなものがあるって、すごくカッコいいと思う」
「……そうですか?」
慎は照れ臭そうに視線を落とした。
しかし、香澄の目がゴミ箱に入っているパウチタイプのゼリー飲料に向けられていることに気づくと、気まずそうな笑みを浮かべる。
「でも俺、自炊能力はゼロなんです。なのでウーバーやコンビニなんかに頼ってばかりいて」
それを聞いた香澄は、それでは身体を壊してしまわないかと心配になった。
簡単なものでよければ何か作ってあげたいという考えも浮かんだが、香澄と慎は出会ったばかりだ。
さすがに余計なお世話だろうと思い直し「そっか。無理に自炊する必要はないと思うけど、身体を壊さないようにきちんとした食事もとった方がいいよ」と伝えることに留めておいた。



