『今日の占い、一位は牡牛座のあなた! 予想外の展開に落ち込むことになりそうですが、それを上回る素敵な出来事や出会いが待っているかも! 幸運の鍵はヒールのある靴。ラッキーカラーは赤! ラッキーナンバーは“10”です!』

テレビから聞こえてくるのは、アナウンサーの女性の溌剌とした声だ。
これを見ているのが牡牛座の男性だった場合、ヒールの靴を履くのが難しい人もいるんじゃないだろうか、なんてことをぼんやりと考えながら、マグカップに残っている温い珈琲をちびちびと飲んでいく。

沢城香澄(さわしろかすみ)、二十七歳。
一般企業で事務員として働いている、しがないOLだ。
四月生まれの牡牛座で、親しくしている友人たちからは真面目でしっかりしていると頼られることも多い。
これといった趣味はないが、家事は得意な方で料理も好きだ。月に一度の自分へのご褒美には、SNSで話題になっている料理が美味しいお店に行くのを楽しみにしている。

香澄は珈琲を飲み終えると、マグカップを流しでさっと洗ってから歯を磨き、付けっぱなしにしていたテレビを消して、出かける準備をするため寝室に足を向けた。

今日は休日で、彼氏と映画を観に行く予定になっている。
鞄に財布やハンカチを入れて、リップを塗りなおせば準備は完了。
最寄駅までは徒歩三分で着くので、これから家を出れば、約束していた十時半には余裕で到着できそうだ。

玄関で最近おろしたばかりの赤いハイヒールシューズを履く。
そこで、そう言えば今日の占いでヒールのある靴と赤がラッキーであったことを思い出して、偶然の一致に少しだけおかしくなった。