「はあぁぁ〜…………見つかって良かったぁ……」
朝、普段より二十分程早く登校した私は、ようやく目当てのものを探し出した。
昨日落としたキーホルダー。
三年くらい前におばあちゃんに買ってもらった、ご当地キャラのものだ。
思い出の品だから、失くしたくなかったのに……運動場に忘れちゃってたなんてなっ……。
朝の会が始まるまでは、大体あと十分かな。
「いつも行かないところにも行ってみようっと……」
そう考えて、ふと思い当たったのは…………図書室。
そういえば、全然行ったことないっけ……折角だし、行っちゃおう。
開いてるかな〜……と、首を傾げながら図書室前まで歩く。
「……あれ、なんか静か……」
やっぱり閉まってるのかな……なんて思いながら扉に駆け寄ると、鼻歌が聞こえてきた。
「誰か居ますかっ……?」
そう言って奥を覗けば、カウンターに座る男の子。
見覚えがあるような…………って、あっ……!!
一学期の学級委員の人だっ……!
「あ、おはようございます」
その顔を見ると、とっても整っている。
「おはようございますっ……!! えっと……あ、朝って図書室、開いてたんですねっ……!」
ドギマギしながら話しかけた。 焦ってるせいで、変な話しかけ方しちゃった……っ。
「うん。開けてても開けてなくても良いって感じかな。僕は毎日開けてるよ」
そう言って、私にふんわりと笑いかけた彼。
その柔らかい雰囲気に、思わずドキっとしてしまう。
「ああああの、一学期、学級委員でしたよねっ……!! お会いしたことがある気がしてっ……」
顔が赤いのを隠すように、疑問をぶつけてみた。
「あぁ、確かにそこでも会ったことあるね」
「そこでも……って、他にどこかで会いましたっけ…………あわわ、すみません覚えてなくって」
彼の言葉に首を傾げた。 って、覚えてないの、すっごく失礼だっ……。
「覚えてないのも無理ないよ。 えっと……蘭由美さんだよね?」
「え、なんで知ってっ……」
「小学四年生くらいの頃、絵画コンクールで銀賞取ってたよね……それで覚えてたんだ」
「よよ、よく知ってますねっ……!! 貴方も、受賞者なんですかっ?」
自分でもあんまり覚えてないことを掘り返されて、恥ずかしくなる。
「うん、一応ね。 西久里っていうんだ」
「へっ……西、さんって……!!」
めっっちゃ絵が上手で、受賞セレモニーでもインタビューいっぱい受けてた子……。
「覚えてくれてたんだ……ありがとう」
「いえいえ、そんなっ……銀の私のことなんて覚えてた、西さんの方が凄いですよっ!!」
私がそう力説していると、我が校特有の、異様に高い音のチャイムが鳴った。
「もう時間近いよ。またね」
「えぇっと、……はい、また」
何か言いたかったけど出てこず、静かに手を振るしかできない自分がもどかしかった。
「……うちの図書室ってさ、朝、誰も来ないんだ」
「……」
彼がそう話しかけてくれて、無言で耳を傾ける。
「でさ。蘭さんが来てくれて、久しぶりにすっごく楽しかった。ありがとね」
その優しい声に、ズキューンとハートを射抜かれた思いだった。
「う、ううん!!私の方こそ、とっても良い時間だったよっ!」
そう、咄嗟に返した。
何も言わず、ふっと笑ってくれた西さんが、世界一素敵な人に見えた。



