翌週。
芹葉の新店舗はプレオープンの開店前で、静けさに包まれていた。
窓から差し込む朝光は柔らかく、検疫室の白光とはまるで違う。
箱から花を取り出し、水揚げをする音が店内に響く。
作業台にはあの時、蒼志が描いた衛生導線図が貼られている。
線は未来の店を守るための道筋となり、白光の中で描かれたものが、今は朝光の中で実体化していた。
来店を告げる小さな音が響いた。
芹葉は顔を上げる。
開店前なのに、扉の向こうに蒼志が立っていた。
無菌服ではなく、普段着の彼。
その姿に、胸の奥がふわりと温かくなる。
「最初の客になるのは、ルール違反じゃないよね?」
蒼志が軽く冗談を言う。
芹葉は笑って答えた。
「むしろ、ウェルカムです!」
蒼志は一輪の花を選び、手に取った。
私が選び抜いたムスカリ。
花言葉は……明るい未来。
「この花、通ってよかった」
その言葉に、芹葉は胸が熱くなる。
「朔さんも、来てくれて嬉しいです」
二人は笑い合い、朝の静けさが小さな約束に変わる。
レジ横にはモニタリング表が置かれている。
芹葉はペンを取り、チェックボックスに1つ目の印を付けた。
『最初の45分』と『最初の一輪』が重なり、今日が始まった。
蒼志は店の外に出て、振り返った。
目だけで『また来る』と伝える。
ガラス越しに差す朝光が、花瓶の水をきらめかせる。
導線図の線は、店内に確かな未来を描いていた。
——通ったのは花。
そして、二人の時間も。
45分を超え、小さな約束が未来を照らした。
~FIN~



