激重シスコン皇帝は、勝ち気な姫に陥落する

ビンセントを見送った後も、
ルチアは波打ち際から動けなかった。
風の匂いも、潮騒も、
すべてが胸に痛い。

そんなルチアに近づいてきたのは
姉ベリルの夫カラムだった。
未だ憔悴しながらも、
深い優しさがその目には宿っている。

「……ルチア、泣くな。皇帝陛下の前では泣かなかったのに、今になって泣くのか?」

「……カラム兄さま、私……どうしたらいいか分からないの……」

カラムは潮風に髪を揺らしながら、
港に停泊する軍艦を見つめていた。

「好きなんだろう?」
優しく、だが真っ直ぐな声。

ルチアは大きく目を見開く。
否定できない。
胸の奥から溢れ出しそうな想い。
「……怖いの。あんな大国に嫁いで、私なんかが――」

「関係ない。」
カラムは静かに遮った。

「お前の姉はな、身分も年齢も関係なく、俺を選んでくれた。周りに何を言われても、全部乗り越えて――俺のところへ来た。」

そう言って、彼は空を仰ぐ。
その横顔には、
喪失の痛みと誇りが混じった
深い影がさしていた。

「行け、ルチア。ベリルならきっとそう言う。
――好きなら、迷わず飛び込め。」

その言葉が胸に突き刺さる。
ルチアは思わず唇を噛みしめた。

(姉さん……私……)
答えはもう心の中で決まっていた。
ビンセントの背中が見えなくなるほど
遠くなった今になって――
どうしようもなく会いたい。
そばにいたい。
「戻ってきて」と叫びたい。

それが恋だと、
ようやく認めざるを得なかった。